第二号「ブラック部活動」
素晴らしい高校生活の第二話となります。
サブタイトルは、まぁ、気にしないでください。
この高校にはたくさんの部活が存在している。サッカー部や吹奏楽部など一般的な部活がある一方で、食品サンプル部や箸置き部といった他ではめったに見られないであろう部活も存在している。
部活の数が多ければ、当然部室の数も多くなり校内の様々なところが部室として利用されている。
では、俺が入ってしまった新聞部の部室はどこにあるのかというと、喜ぶべきか分からないが一年生の教室がある一つ上の階層である五階に存在する。
活動日は毎日であり、活動時間は自由とされている。ただ活動時間が自由といっても、締め切りが迫っていればギリギリまでやり、締め切りに余裕があれば出席をとって終了となるくらいあいまいなものだと俺は考えている。悲しいことに余裕がある日が今までのところないため、実際のところは分からないが。
毎日が余裕のない日ではあるが、それは決して締め切りが厳しく設定されているというわけではない。新聞部が作成しなければならない数は一か月に二回。加えて、新聞は校内に貼りだす形式を取っているためもちろん内容は重要だが、一面分作ってしまえばそれで構わないのだ。それを月に最低二回行えばいいだけの、比較的甘い締め切り。
しかし、そんなこと関係なしに常に余裕を持たせない厄介な人間が同じ部活内に存在する。
その人間は新聞の内容に関するアイディアを出すまでが長いうえに、アイディアが浮かんだあと行動に移すまでも長い。そのくせ目標は高く設定する。
そして何より、入学したばかりの一年生を脅して入部させるような人間だ。
その人間こそがこの新聞部の部長である。部員は俺と部長の二人だけである。そのため、部活の時間は部室で一年先輩の女子生徒と二人きりという構図が生まれるわけだが、一切ドキドキしない。
認めたくはないが、あの部長、見てくれは割と良い。色は黒に少し紫が混ざったようで、長くさらっとしている髪。その髪に映える赤色の瞳。加えて本性を知らなければ関わり合いたくないとは決して思わない、穏やかで柔らかな顔つき。
だが、中身が残念すぎる。
「ほんと、中身なんだよな〜」
「どうした? 内容が思いつかないのか」
「まぁ、そんなとこだな。ところで部長はなんか思いついたか?」
「任せとけ、心配することはない」
つい昨日、四月の二回目の新聞製作を終えたばかりの新聞部。
しかし、今日も放課後は部室で過ごしている。
その理由は、この部長がなかなか仕事をしないくせに高い目標を持ちがち、というところにある。
一週間程度経てば、喜ばしいことにゴールデンウィークに入る。ゴールデンウィークといえばお出かけ、と考える生徒ももちろんいるため、部長はその前にオススメスポット特集を新聞に載せようと考えた。その発想自体に問題はない。むしろまさにピッタリな企画だと思う。
だが、締め切りが待ってくれることはない。
「なぁ、部長よ。ゴールデンウィークまであと少しだが、その前に発行予定の新聞の下ごしらえはもう済んでいるのか?」
「いいかい、ネタやアイディアというものは生物なんだ。長い間保存するのには向いていない。」
「つまり?」
「前もって用意をしておくのはナンセンス、ということだよ」
「その考え方がが過去二回の、俺が地獄を見るっていう結果につながったんだが!」
「なるほど。時期も時期だし確かに、このままでは大変なスケジュールになってしまうな」
マジか。絶対にこの部長には話が通じないと思っていたのに、俺の発言を受け入れた、だと。
「おい、なんだその顔は。私が悪いものでも食べたのではないかと、言いたげだな」
「いや、まさか素直に聞き入れるとは思わなくてな」
「君はつくづく失礼な奴だな。私はこの部の長だぞ。常に様々なことを考えて行動している」
「なら、もっと前からその力を発揮してくれよ。そうしてくれていれば、四月のあの地獄も起きなかったんだがな」
「君はしばしばあの時のことを持ち出すが、あの一件で新聞を製作する大変さが分かっただろ」
忘れもしない、俺が初めて新聞の作成に関わったときにみた「地獄」。
あの地獄と比べれば、昨日までの苦しさもちょっとは軽く思える。まぁそのことはまた今度触れることにしよう。
一番大事なことは、あの一件から新聞製作の大変さを学ぶことができ勉強になったとは言えない、ということだ。なぜなら俺が学び感じたことは、この部長はマジにヤバいということだけだからだ。
こいつ、語彙力なさすぎるだろとか思わないでくれ。まともに言葉を紡ぎだせるほど、この部長は甘くない。おそらく、この部長に間に入られてしまえば百年の恋すらも失われてしまうだろう。それくらいこの部長は危険であり、関わってはいけないのだ。
「ところで、皆さんは今こう思っているんじゃないだろうか。さっきから彼は私のことをひたすら、部長と呼んでいるがなぜ名前では呼ばないのかと」
「びっくりした! どうして俺の心の中を読むことができるんだよ」
「私は君のことを君以上に知っているからな。君の心を読むことなど造作もない」
「怖いことを言うなよ......」
「まぁそのことはひとまず置いておいてだな、彼が私を部長と呼ぶのには理由がある。あれは彼が初めてこの部室に来た時のことだった。彼は私のことを、こいつだとかなんとかとおよそ先輩に対してふさわしいと思えない言葉遣いをしていた。そのため、私は彼に一つ提案をした。今から六通りの私に対する呼び方を出し、それぞれに一から六の番号を振り当てる。そして、サイコロを振り出た目が割り振られた呼び方をしてもらおうと」
「結果、俺は六の目を出し六が割り振られていた部長という呼び方をすることになったと」
「他の目を出していれば面白い呼び方もあったというのに、一番無難な呼び方に落ち着くのだから君というやつは」
「俺としては、六を出せて本当に助かったよ。下手すりゃ俺は部長のことを師匠と呼ばなきゃいけなかったからな」
「君はノリが悪いなぁ。だが悲観することばかりでもない。なにせ六という数字が持つ意味は実に面白いものだからな」
あの時もこんなことを言っていたが、どうも調べようと思えない。これで「労働」みたいな意味が出たら、俺はおそらく泣いてしまうからな。
「そうそう、君にはまだ説明していないことがあってな」
「何だ、その嫌な予感しかしない台詞は」
「実はこの新聞部はただの新聞部ではない。この部活が真価を発揮するのは、」
ガラッ!
答えが明かされる、その直前で唐突に開かれたドア。
その瞬間、俺はものすごく嫌な予感がした。
理由は簡単。
部長がこれまで見たことのない笑みを浮かべたからだ。
まるで、ようやく面白くなってきたと言わんばかりの、そんな笑みを……。
いかにも何かが起こりそうな雰囲気で、今回は幕を閉じました。
次の話も見てもらえれば、きっとラブコメを感じられると思います。
それではまた、近いうちにお会いしましょう!




