第一号「素晴らしくない高校生活の始まり」
再投稿です。
この作品はラブコメです。
ただ、普通のラブコメではありません。
ここには、皆さんが見たことのないラブコメが広がっています!
四月。それは始まりの季節。進級や進学、就職など、新しい舞台で一年が始まる最初の月。
そして新しい舞台に登壇したはいいものの、緊張がまだ解けない、そんな月でもある。
そんな四月の下旬、俺が高校に入学してからまだ二週間程度しか経っていない頃の放課後。
俺の現状はこうなっていた。
「おい! 締め切りまであと三日だぞ、さっさとアイディア出さんかい!」
「そう焦るな、締め切りまであと三日もあると考えたらどうだ。少しは余裕が生まれるぞ」
「そう考えながら呑気に行動していった結果が、一週間前の地獄につながったんだろうが!」
部室にて、二年生の女子部長にキレていた。
他の誰かがこの話を聞けば、まったく理解できないだろう。俺だって理解できないし、納得などもってのほかだ。
だが残念なことに、この状況こそが高校生になったばかりの俺が実際に体験しているものだ。
どこから話すべきなのか分からないので、とりあえず入学式にまで一度話を戻そう。
高校生活初日、家を出る前から全くもって緊張していなかったといえば嘘になる。何せ自分を取り巻く環境がガラッと変わる。
しかし俺はこういう時にテンション高く振る舞うなんていうキャラでもないため、あくまでいつも通り冷静に行動することを心掛ける。
二十分ほど歩いて学校に着くとまずは一つ目のイベント「クラス発表」が発生する。
といっても、この学校にはほとんど小学校、中学校の同級生はいないためさほど緊張することなく、二組に割り振られたことを確認すると誰かと話すこともなくすぐに下駄箱に向かう。
教室に入ると、既に登校してきている生徒も多いな、と思いながら自分の席に座りボケっとして過ごす。そんなんで友達作れんのかよだって、やかましいわ。
やがてチャイムが鳴り朝のHRが始まったが、このタイミングではまだ担任が誰であるかは分からなかった。始業式にて初めて明かされる、という形式をとっているためであろう。教室に来た担任ではない教師からの連絡を聞き、朝のHR終了後いよいよ入学式のため体育館へと向かった。
おそらくここまでのいずれかのタイミングなのだ。俺があの部長に見つかり目を付けられてしまったのは。
基本周りに対してあまり関心が無いため、自ら周囲に注意を払うということはしない。
だが独りでいるがゆえに、周りの情報は意識せずとも勝手に入ってくる。
つまり、近くで俺のことを見ている人間がいれば気づいてもおかしくない。
しかし、俺はあの部長の存在に気づいていなかった。
そして知らない間にターゲットにされていた俺は、早速次の日巻き込まれることとなる。
「やぁ、少し私に付き合ってもらえないか?」
この台詞を切り口に、俺とあの忌々しき部長との全くもって素晴らしくない日常が始まるのであった。
だが、最初に話しかけられたときには相手が何者であるかは知らなかった。
そのため、不思議に思いつつも話をしてしまったのだ。
「え〜っと、どちら様でしょうか?」
「私は君の一年先輩、とだけ今は言っておこう」
「その先輩が俺に何かご用でしょうか?」
「率直に言おう。君には私の部活に入ってもらう」
「は? いや、何を言ってるんですか」
「そのままの意味だよ。君には私の部活に入ってもらう」
確かに今日部活についての話は担任からされたが、それはあくまで仮入部についてだ。
来週から仮入部期間が始まる。この学校では、原則いずれかの部活に入らなければならないため、よく考えて行動するように、と言っていた。
それを踏まえると、目の前にいる先輩が言っていることは
「あんたに選択の自由はないから〜」
ということになる。
納得できるかい!
この人にも何らかの事情があるんだろうが、俺にも事情がある。
それに、一度はっきりと断ればこれ以上は踏み込んでこないだろう。
「申し訳ありませんが、他をあたっていただけませんか?」
「断る」
「は?」
「私は君に入ってもらいたいのだよ」
あれ? なんて言った、この先輩。少し混乱してきたから一度振り返ろう。
まず、この先輩は俺に話しかけてきた。内容はいたってシンプルで、この人が部長をしている部活に俺に入ってもらいたいという頼み。しかし、俺は丁重にお断りした。
そして俺は今、その先輩に腕を引っ張られて校舎に戻っている。「ちょっと待て!」
「どうした? 落とし物でもしたか?」
「しいて言うなら自由を失ったわ。俺言ったよな! ほかの人をあたれって。それなのにどうしてお前は、俺のことを引っ張っているんだよ」
「私も言っただろう、断る、と」
「何で頼み事をされた側がしてきた人間に動かされなきゃいけないんだよ」
俺が自らの自由を確保するために努力していると、ようやく足が止まった。
「それほど私の部活には入りたくないのか?」
「当たり前だろ。少なくとも、いきなり連行させようとしてくる奴は信用ならん」
「そうか、そこまで言うなら君のやりたいようにすればいい」
「どうしてそんなに偉そうなんだよ。だが、自由にできるなら結構。俺はもう帰るから、他の生徒を」
「代わりに全校生徒に向けて君の秘密を暴露しておくとするか」
「頼れ、って、え?」
「いや、いいんだ。確かに君の言うことにも一理ある。もう気にしなくていいぞ」
「待て。お前さっきなんて言った。俺の秘密を暴露する?」
「あぁ、そう言ったな」
「ま、まぁどうせそんなのはったりだろ」
「なら、はったりだと願っておくことだな。それにしてもすごかったな。あれは一昨年のことだったか。君が中学二年生のときのことだったな」
「お、おい待て」
「校舎裏でまさか」
「何でそのことを知っている!?」
どうしてだ、俺はこいつのことを知らない。同じ中学でこいつを見かけた記憶もない。
加えて、このことを同じ中学で唯一知っているあいつが話すことは考えにくい。
となると、いよいよどこから洩れたかは迷宮入りだぞ。
「君にとっては最高機密。だが私はそれを知っている。そして、私はそれを口外してしまうかもしれない。さて、君はどうする」
まずいな。この状況は俺に取って最悪だ。
第一に、俺の秘密を知られている。
第二に、他の生徒たちも下校を始めている。
このままでは取り返しのつかない事態になる。となれば、俺がすべきことは
「分かった......。お前の部活に入る」
「その答えを待っていた。それじゃあ早速部室に案内しよう」
こうして俺はこの忌々しい部長の部活に入り、現在進行形で締め切りに追われていた。
「思いついたぞ~」
「じゃあさっさと手を動かさんかい」
「その前にひとまず休~憩」
「こいつ......!」
締め切り日当日。
四月二十四日、午後七時前。
既にほとんどの部活の生徒が帰路についているであろう時間帯。
「なんとか終わったな」
「お前がもっとちゃんとしていれば一日早く終わってたわ」
「まぁ、そう言うな。そんなことより、どうやらミスはなさそうだな」
俺と部長はパソコンに表示されているものとにらめっこし、今ようやく最終チェックが完了した。
「これでようやく」
「印刷できるな~」
そう、まだ帰ることはできない。今まで扱っていたのはあくまでパソコン上のデータ。これを最後に印刷し貼りだすことで、ようやくすべての工程が終わる。
「あ~、どうしてこんなことになったかなぁ......」
「そう落ち込むな。印刷機を自由に使うことができるのは、我が新聞部の特権だぞ」
俺が入部したのは新聞部。この部活は印刷機を自由に使うことができる。
だが俺が求めるのはこんな時間帯に、死ぬ気で完成させた新聞を印刷することなんかではない。
俺が求めてるものは一つ。
どうか青い春の印刷を!
素敵な高校生活をご覧いただきありがとうございます。
次回以降も少し再投稿が続くので、ほとんど間隔を空けずに投稿することができると思います。
それではまた、近いうちにお会いしましょう!




