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水野忠短編集

魚の気持ち 【短編完結】

作者: 水野忠

 僕の名前は「ポラン」って言います。


 みなさん人間の世界では、僕たちのことは「ぼら」っていうそうですね。海の中にいると、自分達にそんな名前が付けられているなんて夢にも思いません。僕はたまたま頭が悪いので、ちゃらんぽらんだから「ポラン」って呼ばれます。


 タコさんもイカさんも、鯛くんも鰹くんも、みんな名前なんてないんです。あ、でも僕らの天敵である鮫にはみんなで付けたあだ名があります。シャーっと海の中を泳いで、仲間達を喰っちゃうんで、「シャーク」って呼んでます。


 え? 人間の世界では鮫は英語でシャークだよって? よくわかんないけどそうなんだ。まぁ、いいや。


 今日は、僕の好きな小魚がいっぱいいる場所を見つけたからみんなでお出かけしてるんだ。僕たちだってお腹はすくんだよね。海中にプランクトンっていう小さな小さな餌たちはいるけど、僕はあんまり好きじゃないんだ。だって、小さすぎて食べた気しないんだもん。


 あ、いたいた。


 小魚ちゃんがいっぱいいる場所を見つけたから、突撃! うん。パクパクいけちゃうね。今日は食い貯めしないと。こんなに一杯ご馳走に巡り合えるなんて、広い海にいるとなかなかないんだもん。



 すっかりお腹いっぱいになったな。サンゴ礁を見付けたから、ちょっと一休み・・・って。サンゴ礁かと思ったら大量のガラス瓶じゃないか。人間たちももう少し海をきれいに扱ってくれないと困るよ。この間なんて、いきなり濁った海水に飛び込んだから気持ち悪くなっちゃったよ。


 そういえば、南からキハダマグロさんたちが遊びに来たときは、どこの海も汚くなってきて困るって言ってたっけ。なかなかお会いできないからゆっくり話していたかったんだけど、止まると死んじゃうからまたねってさ。なんか忙しなかったなぁ。


 あ、あのワカメちゃんたちの中で一休みしよう。


 ワカメちゃん。ちょっと一休みさせてね。って、ユラユラしてるだけでお話ししないんだよね。まぁ、いいか。


 ちょっともぞもぞさせながら、ワカメちゃんの中に入った僕は、ここで一休み一休み。ちゃんと隠れてないと、シャークとかにパクっといかれちゃうもんね。僕のお兄ちゃんや妹たちはシャークに食べられちゃったんだ。


 あ、でもね。一番怖いのは人間達なんだよ。君たち人間は、偽物の餌で僕たちを騙して、釣ったら食べる時に焼いたりバラバラにしたり、あっついお湯に入れたり、拷問してから食べるんでしょ? ほんと、趣味悪いからやめた方がいいよ! 考えただけでもゾッとする。




 ふぁあ! よく寝たな。ワカメちゃんたち、ありがとう。おかげでぐっすり休めたよ。


 さて、今日は海岸の方に行ってみようかな。海岸線は人間たちも多いけど、陸地が近いと虫さんが間違って海に落ちてくるから、それがご馳走なんだよね。


 虫さんって知ってる? いろいろ種類が多くてさ。小魚に比べるとなかなか食べられないんだけど、不思議な食感がして美味しいんだよ!


 え? 人間たちは虫なんか好んで食べないって? そうなの? 知らないけど。


 あ、いたいた。海中にウニャウニャただよう虫さんだ! 何か今日のはやけにカラフルな虫さんだな。今ならは周りに意地悪する魚もいないし、いただきまーす! 



 パクっ!!



 痛っ! なになに、痛いってば! なんか口の中に刺さったよ?? ちょっと、引っ張んないでよ! 痛いじゃんか!! 痛いっての!!



 そのまま僕は引っ張られ続けました。抵抗したんですよ。嫌だいやだって。でも、口に刺さった針みたいなものに引っ張られて、だんだん海面が見えてきた時、僕は思ったんだ。




 あ、これ、人間に釣られるやつじゃん。って。




 最悪だ。人間たちは拷問してから魚を食べるんだ。どうせ死ぬなら、シャークとかにパクっと丸呑みされる方が楽だったな。嫌だなぁ、焼かれるのかな。バラバラに切り刻まれるのかな・・・。


 僕の身体はついに海面から空気に触れるところまで来てしまった。さっきまで痛かった口の中も、麻痺したのかそんなに痛くなくなったけど、抵抗して暴れたのが良くなかったのかな。疲れちゃったよ・・・。


 そして、僕の身体は海上に釣りあげられたのさ。ああ、やっぱりか。釣竿を持った日焼けしたお兄さんがニコニコしながら僕を見ている。


「おっ! ボラかぁ、でも大きいのが釣れたな。」


 日焼けしたお兄さんが手元で何かくるくる回すたびに、僕の身体がお兄さんに近づいていく。


「やったね岩ちゃん、さすが釣り名人!」


 隣にいる色白の太ったおじさんが汗だくになって笑っていた。・・・キモイ。


「ぴーちゃんは竿を動かしすぎなんだよ。もう少し駆け引きしなくちゃ。」


 お兄さんが僕の身体に触れると、僕はもう観念して動く気にもなれなかった。そうか、さっきのが偽物の餌だったんだ。口に入れても美味しくなかったもんなぁ。酷いよなぁ。


 ぴーちゃんってよばれたさっきのオジさんが、なんか四角いもの取り出してこっちに向けてる。お兄さんはなんかポーズ決めてるし、なんなの?


 わっ! 急に何かが光った。まぶしいなぁ。


 お兄さんは僕を地面に転がすと、何か棒を取り出して、僕の口の中に突っ込んだ。うぇっ! なにすんだよ! っと思ったら、さっきまで口の中で突っかかってた何かが取れた。


 ああっ! そんなに太い針で刺したの? 信じらんない!! 痛いわけだよ。


 なんだかなぁ。せっかくここまで大きくなったのに、最後は人間に殺されるのかぁ。拷問、嫌だなぁ。怖いなぁ・・・。




 もう、どうにでもなれ・・・。


 僕は観念して目を閉じた。短い人生、いや魚生だったな。













 そう諦めたとき、急に身体がふわっとなって、気が付いたら海中にいたんだ。え? え? 海に戻された?? なんで、なんで?


 海面を見上げると、さっきのお兄さんがあいかわらずニコニコしながらこっちに向かって手を振っていた。


「釣られてくれてありがとねー。ばいばーい!」


 あ゛、何言ってんだコイツ!


「岩ちゃん。やっぱり逃がすのもったいなくない? 食べればいいのに・・・。」

「こんなとこの魚、泥臭くて食べられないよ。」

「そうなの?」


 そうなの? じゃねぇよ! 痛いんだよ!! 痛かったんだよ!! 餌だと思って食いついたら偽物だしさ。針に口の中刺されて痛いしさ。それで引っ張られんだよ。針が口の中に刺さったまま、全力で引っ張られるんだよ? 痛いのよ、果てしなくさぁ!


 全力で暴れるからそりゃ疲れるし、観念して釣り上げられたら、「釣られてくれて、ありがと。」じゃあないんだよ!! 餌が偽物だった悲しい気持ち、死ぬのを観念した苦しい気持ち、どこに持っていけばいいのさ!!



 僕は早々に沖まで泳いでいった。口直しに小魚でも食べなきゃ報われないよ。


 途中でベテランの真鯛さんに聞いたんだけど、人間たちって、食べるために釣るんじゃなくて趣味で釣る人も多いんだって?


 ちょっとさ、魚の気持ちにもなってみてよ。餌は偽物、針は痛い、釣られて観念したら海に戻されるって、なんなん? まじ、人間ありえへんわ!!


 もう海岸沿いを泳ぐのはやめよう。沖で小魚食べて、幸せに暮らすんだ。あぁ、針が刺さった頬が痛い。チクショー。


 んっ? 突然暗くなったぞ。あれ? なんだこれ、苦しいな。あ、シャークに喰われちゃった。なんだよ、もう・・・。


終わり。

お読みいただきありがとうございます。


私の尊敬する元上司は釣り好きです。

仕事の前後に釣りをしては、

釣った魚をリリースして自然に返します。


よくLINEで釣った報告をいただくのですが、

食いしん坊の私には美味しそうに見えるおさかなさん達でも、

惜しげもなくリリースします。


ちょっと、

魚の気持ちになって考えてみたら、

あれ?

ひょっとしておさかなさん怒ってる?

そんな思いで書いてみました。


ポラン君に幸あれ・・・。


ブックマークと高評価も、

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)リアルだけどシュールっていうところ。だけど終始独特な世界観がぶれてなかったというか……とにかく楽しめました(笑)(笑)(笑) [気になる点] ∀・)釣りをしながら思いついた御話だった…
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