97.僕はパパの腕の中にいるよ
両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと目を閉じる。いつもと同じだよ。パパやアガレスが「もういいよ」と言うまで、僕は聞かないし見ないの。パパがケガしてないか、アガレスが痛い思いしてないか気になるけど。今の僕が出来るのは、約束を守ることだよ。
こうしていると、一人で暗い部屋にいたことを思い出す。誰も僕を好きじゃなくて、でも好きになって欲しくて。冷たい石の上に座っていた。服もボロボロで、靴もない。温かい毛布や、気持ちいいお布団もなかった。
ぶるりと身を震わせる。そんな僕を、温かい手が包んだ。そのまま抱っこした腕はパパで、頭を撫でる優しい手はアガレス?
目を開けた僕の前で、パパが笑った。少し目を動かすと、アガレスが頷く。もう耳の手を離していいみたい。
「約束を守ってくださり、ありがとうございます。カリス様、おケガはありませんか?」
尋ねるアガレスから血の臭いがする。でも痛そうな顔じゃなかった。パパも血の臭いがするね。
「パパとアガレスはケガしてない? 血の臭いがするよ。痛くないの?」
驚いた顔をするアガレスが首を横に振った。
「陛下も私もケガはありません」
パパはずっと僕の手や足を触ってる。それで鎖に気づいた。僕の足に付けられた輪っかと、そこに繋がる鎖だよ。触ると手がピリピリして痛いの。
「何とも悍ましいことを考えるものだ」
おぞましい? 難しい言葉で意味がわからないけど、パパは怒ってるみたい。僕の足に付いた輪を千切った。びっくりする。僕が引っ張っても取れなかったのに、パパは指先でくいっと捻っただけ。ボロボロになって床に落ちた。繋がってた鎖がじゃらりと固い音で転がる。
「パパ、強いね。鎖が取れた!」
鎖を睨むアガレスが口の中で何か言ったけど、僕には聞こえなかった。すごく怖い顔してる。この鎖、アガレスは嫌いなのかな。
「他に何かされたか?」
「ううん。銀の棒……えっと、アモンの剣みたいなので叩かれそうになっただけ。怖かったけど、パパとアガレスが来たから、平気だよ」
「偉いぞ、カリス。俺が来るまでよく頑張った」
うん、泣きそうだったけど頑張った。
「パパ、アガレス。助けてくれてありがと」
パパの頬に唇を押し当てる。キスをしてもらうと幸せになるから、僕もお返しだよ。アガレスにもキスしようとしたけど、パパが口を押さえて邪魔するの。
「アガレスにキスはダメだ」
「……心の狭い父親は嫌われますよ」
二人は仲良しだね。話す二人から目を逸らした僕は、床の赤いシミと転がってる天使の人に気づいた。あの人、ケガをしたのかな。動かないけど……。
「陛下っ! 遅くなり……え? 終わってるのぉ!?」
飛び込んできたアモンが悲鳴を上げて叫び、続いて僕の無事を喜んでくれた。倒れてる人はアモンが連れて帰るみたい。
「責任持ってお預かりします」
アモンの部下だという鱗や牙のある人達が、天使の人を連れて姿を消した。それを見送ってから、僕達も帰る。
「怖かっただろう、もう大丈夫だからな。カリス、本当に無事でよかった」
パパは泣きそうになりながら、僕を強く抱き締めた。僕の手は短いけど、必死に伸ばしてパパを抱っこする。泣かないで、パパ。僕はパパの腕の中にいるよ。
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