90.パパがいなくて、寂しかったの
朝起きたらパパがいなくて、ベッドの上できょろきょろする。いつもは僕が起きるまでいるのに、どうしたんだろう。すごく忙しくて、アガレスが呼びに来たのかな。
まだ僕には高いベッドの上から飛び降りて、お風呂がある扉を開ける。それからトイレの方も開けた。やっぱりパパはいない。お洋服がしまってある部屋に入って、お洋服に手を伸ばした。届かなくて、近くにある箱を押してその上に乗る。ぐらぐら揺れる箱の上なら、指先にちょっと服が触った。
後少し。ぐいっと身を乗り出したら、箱が大きく揺れた。あ、崩れちゃう!
「パパっ!」
「おっと。危なかったな」
パパが僕を抱っこしていた。いつ部屋に帰ってきたの? いなくて怖かった。寂しかったし、探したんだよ。いろんな言葉が溢れて目が熱くなる。涙が溢れそうだった。
「悪かった。隣にある仕事部屋にいたんだが、カリスが起きたのに気付くのが遅れた」
部屋にいるから安全だと思ったんだ。そう続けたパパは、崩れた箱を積み直した。中には靴や縫いぐるみがしまってあるみたい。今日のお洋服を一緒に選んで、お部屋に戻った。
「どこかぶつけていないか?」
「痛くないよ」
ぶつけたか分からないけど、どこも痛くない。そう答えたら、手足を順番に確認された。興奮してる時は痛みが分かりにくいんだって。心配したパパが確認したけど、どこにもケガはしてなかった。
ベッドの上でお洋服を着替える。ボタンを自分で留めたくて頑張ったけど、難しかった。一番上のボタンだけパパに留めてもらう。首の近くは見えないから難しいの。大人になったら出来るようになるかな。
「よし、終わりだ。今日も可愛いぞ」
「ありがとう、パパ」
可愛いって言われると、僕は嬉しい。パパも僕を好きだから言うんだと思う。にこにこと笑う僕は、部屋に入ってきたアガレスに気づいた。
「おはよう、アガレス」
「おはようございます。陛下が大慌てで出ていくので何かと思いましたが、今朝は早かったですね」
いつもより早い時間に僕は起きたの? じゃあ、パパは僕が寝てる間にお仕事したのかも。いつもそうなら、僕が絵本を読んでもらう時間を減らしてもいいよ。パパの寝る時間がなくなっちゃう。
「心配するな。今日はたまたまだ、普段は一緒に寝て起きてるぞ。カリスは優しいな」
くしゃりと髪を撫でてくれる。この手が大好き。大きくて僕を包んで、とても温かいんだよ。僕はパパに出会うまで、こんな風に撫でてもらったことがないから。いつまでも撫でていて欲しいの。
「セーレが焼き菓子を一緒に作りたいと言っていましたよ。予定はいつにしますか?」
僕を膝に乗せて撫でるパパの手が疲れちゃう頃、アガレスに尋ねられた。セーレがお菓子を作るのを手伝えるなら、いつでも頑張るよ。
「プルソンのお勉強が休みの日」
「ふふっ、では3日後にしましょうか。私と陛下は仕事ですから、セーレと焼いたお菓子を差し入れてください」
差し入れ? 知らない言葉だ。首を傾げた僕に、パパがこっそり教えてくれた。差し入れって、プレゼントのことなんだね。パパとアガレスに僕がプレゼント! 頑張って美味しいお菓子を作ろう。




