88.お馬さんに乗って散歩だよ
お馬さんに人参を3本あげたら、僕が手を伸ばしても逃げなくなった。ご飯くれる人はいい人だって、お馬さんも分かるんだ! 僕もご飯をくれたり優しく抱っこしてくれるパパ達が大好きだよ。お馬さんも僕を好きになってくれたら、嬉しい。
「そろそろ平気だと思います」
オロバスがそう言って、道具を用意し始めた。お馬さんに乗るには、たくさんの道具を使うんだ。背中にパパや僕が乗る部分を作って、止まって欲しい時に知らせる綱も口につけるの。痛くないか心配したら、お馬さんは慣れてるから平気だって。
慣れてても痛かったら可哀想だよ。
「馬が痛くないように付けるから、安心していいぞ」
「うん。オロバスに任せる」
「ええ。ちゃんと痛くないよう取り付けますし、馬も痛いと鳴くんですよ」
そうだよね。痛かったり、付けられたくない日もあるから。ちゃんと教えてくれるなら安心だね。お馬さんは僕が低いから、長い首を僕の方へ下げてくれる。大きな茶色い目が優しくて、何度も鼻の白い筋を撫でた。
毛は短くて、縫いぐるみみたい。温かくてしっとりしてる。目を細めたり、時々ぶるるって鼻を鳴らすの。甘えてるんだと言われて、嬉しくなった。驚かさないように鼻先に抱きつく。ぎゅっと抱っこしたら、離れた時に僕の顔を舐めた!
「うわっ」
「随分懐いてますね」
オロバスがくすくす笑って、顔を拭く布を貸してくれる。お礼を言って顔を拭き、パパが僕を抱き上げた。お馬さんも僕が高くなったら、一緒に頭を上げる。ずっと下を見てたら、首が疲れちゃうもん。
「陛下、準備が出来ました」
「手間を掛けたな、オロバス」
「ありがとう」
お礼を言って、馬に乗ったパパの前に座る。お馬さんの名前はリックだよ。オロバスに教えてもらった。本当はアモンのお馬さんみたい。だからアモンはリックにそっくりのお洋服を作ったの? お馬さんはすごく高くて、背中に乗った僕はオロバスより上にいる。
「揺れるぞ」
パパが僕のお腹に手を回して、もう片方の手で綱を握る。お馬さんが歩き出したら、ぐらぐらした。下から押される感じで、両側にも揺れる。僕のお腹をパパが抱っこしてなかったら、もう落ちてたかも。びっくりしたけど、建物の外へ出て少ししたら、リックの足が速くなった。
「落ちない魔法をかけよう」
パパに言われて、ほっとする。こんなに高いと、ベッドから落ちるより痛いと思うから。リックは気分よさそうに白い背中の毛を揺らして走る。興奮した僕が前に体を動かしたとき、ふわりとリックが飛んだ。何か足元に大きな物があったみたいで、僕は後ろのパパに背中を支えてもらう。
お腹の辺りがぶわっとしたの。撫でていると、リックがゆっくりになる。ちらっと僕を見るから心配したの? 大丈夫だよ。にっこり笑って首を撫でた。
空は晴れてて、とても気持ちいい。
「ありがとう、パパ。とっても楽しっ……んっ!」
「馬の上で話すと舌を噛む。どれ、見せてみろ」
噛んじゃった舌がじんと痛い。べろっと出した舌に、パパがおまじないをしてくれた。すぐに痛いのが消える。リックの上で話さないように気をつけるね。