83.薬屋のビフロンスのお手伝いした
薬を作ってるのは、地下だから薄暗いと思ったら灯りがいっぱいあった。この部屋を管理してるのは、青白い顔で具合の悪そうな人だ。平気なのかな。心配になって、プルソンと繋いでない方の手を伸ばした。触ったら冷たいし、ざらざらしてる。
「……っ、変わった、お子ですな」
「バエル様のご子息カリス様です。今日は薬の作り方を見学させていただく約束でした」
「ちゃんと覚えてるよ、ビフロンスです」
前の部分はプルソンに返事をしてて、残りは僕を見ながら話した。きっとお名前だと思う。
「ビフロンス? 僕はカリスです。薬のことを教えてください」
頼むときはちゃんと目を見て、しっかり言いなさい。アガレスから教わった。青白い顔で茶色い髪のビフロンスは、目が右と左で色が違う。片方は赤くて、もう片方は黒い。
「右も左も綺麗な目だね」
「……ビフロンス殿、この方は」
焦った様子でプルソンが口を開くから、僕は慌てた。もしかして言っちゃいけなかった? ごめんなさいと頭を下げた僕に、ビフロンスが首を横に振る。
「お気になさらず。プルソンと手を繋ぎ、この目を綺麗だと言う。本当に変わったお子だ。この顔に触れるのは怖くありませんかな?」
ビフロンスが灯りを自分に近づけた。顔にいっぱい鱗が生えてる。前にパパが鱗が生えてる人は、触ると僕より冷たいんだと教えてくれた。それでさっき冷たかったんだね。ざらざらしてたのも、鱗なら分かる。
「うん。鱗がきらきらしてるね。具合は悪くないの?」
青い顔だから心配と伝えたら、笑ってくれた。鱗が青い色だから、具合が悪くて青いわけじゃないの。安心してビフロンスの顔に手を押し当てた。冷たくて、でも痛い冷たさじゃない。撫でていたら、ちくっとした。
「鱗で傷にしましたか? 申し訳ない」
「ううん。ビフロンスは痛くなかった?」
「平気です……こちらをどうぞ」
出してくれた薬を塗ってみる。沁みないし、痛くない。凄い薬を作ってる人なんだと目を輝かせて話すと、彼は照れたように頬を指先で掻いた。薬の作り方を教えてもらう。お鍋に入れた薬の草をぐつぐつ煮て、何度も丁寧に濾した。乾かすと粉になると言って完成品を見せてもらう。
この時点で濁った茶色は白くなっていた。不思議だね。徐々に色がなくなるのかな。
「カリス様も作ってみますか」
「いいの! やりたい」
お手伝いで薬の草を煮る鍋をかき混ぜた。傷が痛くなくなって治りますように。願いを込めてかき回す僕を、プルソンが後ろから支えてくれる。お鍋の中に落ちたら困るから。安心してかき回せた。プルソンにお礼を言って、ビフロンスを振り返る。
「よく出来ましたね。では搾る作業も手伝ってください」
「わかった!」
ビフロンスもプルソンも、全部の作業を僕にやらせてくれた。粉にする魔法だけは時間がかかるので出来なかったけど。いろいろお手伝いしたから疲れたけど、ちゃんと覚えられた。出来上がった薬も分けてもらって、手を振って別れる。
また遊びに来ると言ったら、ビフロンスは喜んだ。
「今度はおやつを持って遊びにいきましょうか」
「僕の好きな柔らかいケーキがいいな」
「焼き菓子も好きだと思いますよ」
たくさん話してパパのお仕事部屋に戻り、今日お勉強した内容を絵で残しておく。出来上がった絵をファイルに閉じて、今日は終わり。
「パパ、手を出して」
昨日切った傷に持って帰った薬を塗る。これで治るね。パパを見たら泣いてた。そんなに痛かったのかな、ごめんね。