71.交換して交換、僕にも出来た!
茶色が5つ。でも残ってるのは、銀が2つと茶色が3つだけ。眉尻が垂れて唇が尖る。泣きそう。お魚、僕の分を我慢すればよかった。
「カリス、銀を1つ出してごらん」
パパに言われて、ポーチから取り出す。色が違うのに、いいの? それに1つしかない。おばあちゃんは5つ欲しいのに。
「これは茶色が5つを2回分だ」
「こっちが1回分、それからもう1回分?」
右手を出して5本の指を出し、左手も広げる。これで5つが2回分。だとしたら5つ払うから、半分に切ればいいのかな。硬いけど、どうやって半分にするんだろう。
「ああ、お嬢ちゃんは初めてのお買い物かい? お釣りというのがあるんだよ。安心していい。ちゃんと買えるし、銀貨のお金も半分戻るからね」
おばあちゃんは優しく説明して、茶色の5つの山を2つ置いた。パパに促され、隣に銀を1つ並べる。
「この銀と茶色は同じ金額だ。同じだけ買い物が出来る」
パパが銀と茶色を指差す。よく分からないけど、おばあちゃんもパパも頷いたから、正しいと思う。だから僕も頷いた。
「交換しよう」
パパの言葉でおばあちゃんは銀色を受け取った。僕は茶色の5つが2回分を両手に乗せる。
「まだ払ってないから、お金と金平糖を交換だ」
お買い物は欲しいものとお金を交換する。だから僕は茶色を5つ出す。おばあちゃんが金平糖の入った瓶をくれた。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうね」
瓶を覗くときらきらしたお星様がいっぱい入ってる。僕のポーチには入らないから、パパに持ってもらった。収納のお部屋にしまう。
「口を開けてごらん」
おばあちゃんの言葉に従い、素直に口を開けた。ぽんと何かが入ってくる。表面がちくちくしてるのに、痛くない。口の中で転がる音がして、甘いのが広がった。あまり大きくない。
「ひとつおまけだよ」
そう言って笑うおばあちゃんの顔が、くしゃりと皺だらけになった。ありがとうともう一度お礼を言った。すごく美味しい。パパに手を引かれて移動しながら、僕はお金のことを考えていた。
僕は外で買い物をしたことがなかった。いつも家にいたし、お金なんて触ったこともない。こないだの外出もパパが払ったから、よく分からなかったけど……僕は今日、自分で数えてお金を使った。お釣りがあったり、5つよりたくさんの数が出てきた。
「パパ、僕……お勉強したい」
「そうか。お金の計算を覚えてみるか?」
「うん! そうしたらまたパパとお買い物に来られる?」
「もちろんだ! 俺はいつでもカリスと買い物に来たいぞ」
僕が疲れてると思ったパパが抱っこしてくれる。抱き上げられて高くなると、風景が違って見えた。大人って、上から見るからいろいろ詳しいのかな。本当はそんなに疲れてないけど、パパの抱っこは嬉しいから言わない。口を閉ざして、パパの頭に抱きついた。
綺麗な黒い髪、綺麗な銀色のツノ。この綺麗な物で出来てるのが僕のパパだ。いっぱい難しいことも知ってる。すごく自慢したくて、ぎゅっと抱き締めた。大切なパパなんだよ!
ゆらゆらと揺られながらお城まで帰って、僕はお迎えに来たアガレスとパパにブランコをしてもらう。お部屋に入ったらマルバスもいて、お茶を持ったアモンも来た。お土産のお魚と甘いお星様を並べて、僕はいっぱい話した。両手を広げて、今日起きたことを全部話す。
「よかったですね」
「楽しかったみたいで安心しました」
残ったお金を出して数える。銀が1つと茶色が5つと3つ。それは僕のポーチに戻され、宝物がある机の引き出しに入れられた。次のお買い物で使うんだって。それまでにお金の数え方を教えてもらおう。