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66.お手伝いをさせてもらったの

 仕事のお部屋にアガレスがいなかった。いつもパパより早いのに。


「今日は違う仕事を頼んだ。お昼を過ぎれば来るぞ」


「じゃあ、僕はお名前の練習するね」


 床に降りようとしたら、パパが離してくれない。どうしたの? 振り返るけど、パパは僕を膝に乗せたまま書類を捲る。このままお仕事始めるのかな。


「今日はカリスに手伝って欲しいんだが、いいか?」


「僕が手伝ってもいいの?」


 嬉しくなって笑う。パパのお仕事は難しい字がいっぱい並ぶ書類だから、まだ読めない僕にもお手伝いが出来ると思わなかった。わくわくしながらパパのお膝に座り直す。パパは書類を読んで、すらすらと字を書いた。僕知ってるよ、これはパパのお名前のバエルの字なの。周りに飾りがついてるけど、間違いない。


「ここに、印を押すんだ。こないだと同じだな」


「わかった」


「こっちが上だ」


 上の握るところに、小さな凹みがある。これが上向きで、赤い台にぽんぽんしてから紙の上にゆっくり置く。パパが頷いたら、僕がえいって体重をかけるの。それでパパと一緒に印を取る。くっきりと赤い印が付いてた。


「よく出来た、さすがは我が自慢の息子だ! もう一枚できるか」


「頑張る」


 パパが名前を書くのを待って、印を置く。ぐっと押し付けて、パパと一緒に印章を持ち上げた。これは少し角が欠けてるね。次は角にも力を入れないと!


 夢中になって名前の後ろに印を押す。楽しいし、役に立ててるのが嬉しかった。僕がパパのお仕事の役に立ってる。印を押すと書類は完成で、箱に重ねた。パパが読んで名前を書いて、その間に僕は印に赤い色をぺたぺた付ける。紙に押すときみたいにぐりぐり動かすと、全部に赤い色が付くってわかった。


「次はここだ」


 パパが指差した場所に印を下ろす。凹みの向きを確認してから、体重を乗せた。たくさん押して手が疲れた頃、アガレスが来る。部屋に入ってくるなり、僕の前でしゃがんだ。お昼の後に来ると聞いてたけど、別のお仕事終わったのかな。


「お昼、ご一緒していいですか」


「本当!? パパ、アガレスも一緒だって!」


「よかったな」


 パパも嬉しそうで、アガレスは少し泣きそう。手を伸ばしてアガレスの頭に触る。横に動かして撫でた。狼の耳があるから間のところだけね。


「アガレス、どこか痛い? 僕が撫でたら治る?」


「ええ、ありがとうございます。もう治りました。カリス様の手は優しいですね」


 アガレスが笑ってる。それが嬉しくて、僕にも出来たと振り返った。パパが僕の髪にキスをする。皆笑ってるのがいい。怖いのも嫌なのも痛いのも、全部ないのがいいね。


「食べたらお絵描きをしましょうか」


「うん! アガレスのお名前の練習もする。あと少しなの」


 もうちょっとで書けると思う。そう伝えたら、アガレスが嬉しい提案をしてくれた。


「名前が書けたら、そこに私の絵も入れてもらえますか」


「描く! 頑張る」


 アガレスのお顔を描いて、下に名前を書く。難しいけど頑張ろう。


「先にご飯だ」


 パパに抱っこされて、アガレスと手を繋いで。僕は二人と一緒にご飯を食べた。今日は大きな長いパンにハムや卵が刺さったやつ! がぶりと齧るのかと思ったら、アガレスが綺麗に切ってた。両手で持てるくらいになったパンを齧り、スープを飲む。野菜もいっぱい刺さってて、美味しかった。

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