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61.パパ、僕はここだよ

 目が覚めて、知らない部屋に驚く。見回してもパパはいなくて、アガレスもいない。お布団は少し硬くて、僕は起き上がってぬいぐるみを抱きしめた。狼さんをぎゅっとして寝た僕を、パパが後ろから抱っこしてたのに。ここ、なんだか寒い。


 パパがいなくて、狼さんだけ残ってる。羊の服はそのままで、痛いところもなかった。どこかにお出かけしたのかな。動かずに待ってた方がいいのかも。いろいろ考えてないと、泣いちゃいそう。


 きゅっと唇を尖らせて、じわっと滲んだ涙を狼さんで隠した。パパは出かけてるだけだもん。僕は捨てられてない。また捨てられたんだと囁く声に首を横に振った。パパはそんなことしない。僕と一緒の約束をした。


 約束なんて誰が守る? お前は母親に捨てられて、また父親に捨てられたんだ。囁く声にもう一度首を横に振る。違う、そんなことない! パパは約束を守ってくれるんだから!!


「パパ……っ、僕はここだよ」


「うるさいっ! 呼ぶな」


 呟いた瞬間、誰かに突き飛ばされた。びっくりして目を閉じたけど、そっと目を開ける。知らない人がいた。僕をベッドに倒して、その手を振り上げる。あれは叩く時の動きだ。叩かれる! ぎゅっと狼さんを抱っこし、痛みに備えた。歯を食い縛る。大丈夫、すぐにパパが助けてくれるから。


「動くなっ!」


 パパの声だ! 僕を叩こうとした腕が、僕を掴んで引っ張り上げた。襟のところを掴まれたから痛いけど、我慢できるよ。だってパパが来てくれた。じわりと目が熱くなる。


「安心しろ、カリス。すぐに助けてやる」


「うん」


 頷いたけど、手を上げた男に目を閉じる。叩かれちゃう。ぎゅっと狼さんを抱っこした僕の上で、ぐきっと変な音がした。


 何? 細く目を開けて見たのは、僕の目の前にいるパパだ。普段と違う怖い顔をしていた。怒ってるの? 僕が叩かれそうなのを助けてくれたんだ。安心したら気が抜けた。頭の上で変な声が響く。


「ぐぎゃぁあああ! やめっ……返す、からやめろぉ」


 痛そうな声がする。どうしよう。


「カリス、いい子だ。目を閉じて耳を塞ぎなさい。すぐに終わる」


 パパの声が低かった。大丈夫、僕の知ってるパパだよ。だからちゃんと約束守れる。ぎゅっと目を閉じ、迷って狼さんをお膝に置いた。両手で耳を押さえる。これでいい。


 僕を掴んでいた男の人は手を離し、ぐらっとした僕をがっちりした腕が捕まえた。この腕はパパだ。膝の上の狼さんが落ちちゃったけど、すぐにまた膝に乗せてもらえた。よかった、何があったか分からないけど。パパは僕を捨ててなくて、僕を助けに来たんだよね。ありがとう。


 もういいぞ、パパが頭を撫でてくれるまで。僕は耳も目も塞いで待っていた。


「もう平気?」


「ああ。片付いた。安心しろ、城に帰るぞ」


 ちらっと見たら、アガレスも来てる。アモンもいた。並んで立ってるから後ろが見えないけど、アモンが手を振ったので振り返す。パパにしっかり抱っこされ、狼さんをぎゅっとしながら帰った。瞬きしたらお部屋に戻ってる。


 いつもと同じ柔らかいベッドに座って、手足に痛いところがないか確認された。


「僕、ケガしてないよ。痛くない」


「悪かった。迎えに行くのが遅くなったな」


「平気、パパは痛いとこない?」


 ちょっとだけパパに赤い色がついてるの。血が出たのかな。心配して手を伸ばすと、お風呂に入ると言われた。一緒に髪を洗ったり背中を洗ったりしたけど、パパにケガがなくて安心する。


「お迎えありがとう」


「俺こそありがとうだ。信じて待っててくれた。ちゃんと伝わってるぞ」


 僕の心の声はパパに届いてた。少しだけ迷ったし怖かったけど、パパを信じて呼んでよかった。安心したら眠くなっちゃった。

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