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59.ちょっとでいいの? たくさんどうぞ

 パパは次に、赤い花が描かれた絵本を読んでくれた。黒い表紙の絵本は僕のお膝の上にある。これは大切に置いておくの。僕が開いて文字を読めるようになったら、自分でも読んでみるんだ。


 赤い花が咲く森に住む魔女さんの話は、面白かった。一人で住んでいた魔女さんは、赤い花をたくさん育てる。そのお花に蝶や虫が寄ってきて、小鳥も来る。やがて他の動物も集まって、魔女さんは寂しくなくなったお話だ。パパが「懐かしい」と言ったので、絵本に書いてない部分も教えてもらった。


 この魔女さんは実際にいたんだって。赤い花びらから薬を作っていた。たくさん作って人にあげたんだ。お金を取らなかったの。だからいつもお金がなくて、柔らかいパンも食べられなかった。それでも人を助けた優しい人のお話。


「素敵な魔女さんだね」


「カリスの言う通り、優しくて素敵な魔女だった」


 残りの本はまた別の日に読んでもらう。今日はパパのお話と魔女さんのお話で、胸がいっぱい。明日はパパはお仕事で、僕はまた文字を書く練習をする。だから今日は絵本を広げて、絵を見ながらパパといろんなことを話した。


 ゲーティアにいる人間じゃない人は、悪魔と呼ばれること。悪魔は神に逆らった天使だったこと。人間の願いを叶えることができるけど、代わりに契約で対価をもらうこと。僕はパパと一緒にいる契約をしたけど、対価は分からない。


「パパ、僕は何をあげたらいいの?」


「もう貰ってる。少しずつだ」


「……僕が?」


 何も持ってないよ? きょろきょろと自分の姿を確認するけど、何もあげられそうにない。前より少しお肉がついた手足も細いし、たぶん美味しくないよね。パパがぽんと僕の胸を指で軽く叩く。


「カリスの心を少しだけ貰った」


「ちょっとでいいの? たくさんどうぞ」


 パパが僕にくれた物はいっぱい。痛くなくて温かくて美味しいご飯、優しいお友達、暖かくて柔らかいベッド、大好きなパパの腕。数えきれない大好きを貰ってるから、たくさん持っていって。


「たくさんか。カリスが足りなくなるぞ」


「増えてるから平気」


 パパやアガレス達がくれた「優しい」が、胸にいっぱい詰まってる。半分くらいあげても、まだあるよ。にこにこしながら説明したら、パパはぎゅっと強く抱っこした。変なパパ。僕もぎゅっとした。手が短くて届かないけど、いつか大きくなったら背中まで全部ぎゅっとしたい。


 ごろんと寝転んだ僕達は、絵本を畳んでゆっくりした。何もしない時間はそれでも楽しくて、パパの黒髪を弄ったり、僕のほっぺを突いたり。大好きなパパの香りに包まれて、僕はずっと笑っていた。パパも笑って、幸せだなって思うの。


 今日摘んできた白い花は、明日押し花にするんだよ。このまま取っておきたいと言ったら、パパが方法を知ってた。白い紙に載せて、厚い本の間に挟んだら出来る。平べったくなるけど、お花は枯れなくなってずっと持っていられる。楽しみだな。


 寝たら明日になる。それが楽しみだけど勿体無くて、僕はわくわくしながらパパと過ごした。今日の時間も大切にしよう。押し花みたいに残しておけたらいいのに。

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