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56.お金がないのは、痛いことなんだよ

 僕とパパは大きなテーブルの前に座った。僕が自分で座るとテーブルが高いから、お膝の上に乗った。山羊の本屋さんがいっぱい並べた絵本は、どれも色が溢れてる。僕が気になって見つめた絵本を、パパが次々と手元に取り寄せた。


 パパが指を「おいで」って軽く動かすと、すぐに来る。それを広げた。赤い表紙の本は花が描いてある。こんな鮮やかな色なんだね。次は黄色がいっぱいの本を開いたら、知らない動物が描いてある。茶色じゃないの?


「あとはどれがいい?」


「あれ」


 僕が示したのは、黒がいっぱいの表紙だった。届いたら、誰かが戦ってる絵だ。黒い翼があって、パパみたいな人が描いてあった。僕、これが欲しい!


 期待を込めて振り返ると、パパはにっこりして頷いた。それから青い海の絵も見たし、本物みたいな絵が並んだ本も開く。あれもこれも、パパが横に避けていく。僕が抱っこできない量になったところで、パパがお金を払った。


「パパ」


 そっと腕を掴む。あのね、そんなにたくさん買わなくていいよ。お金なくなっちゃう。心配でそう言いたくて、でもお店の人の前だからじっと見上げる。口に出していいのかな。


「安心しろ、カリスが思うよりパパはお金持ちだぞ」


 そう言って笑うパパに無理してる感じはなくて、僕は頷いた。お土産も買ってもらったのに、絵本もこんなに。本当に大丈夫? 奥様もお金がいっぱいある時は優しかった。時々、痛くない食べ物くれたし。でもお金がないって言い出してから、怒鳴って叩き始めた。お金がないのは、痛いことなんだよ。


 ぽんぽんと頭を軽く叩いたパパがぎゅっと僕を抱き締める。ずずっと鼻を啜った僕に、「もう一箇所だけ寄っていく」と言って立ち上がった。買った絵本は全部空中にしまう。


 両手を僕の抱っこに使ったパパは、お店の山羊さんが開いた扉から外に出て、長く歩いた。僕が今日歩いた距離は少ないけど、それでも遠くまで来たなと思う頃、ようやく顔を上げる。


 もう泣いてないよ。パパはお金なくても、僕を叩いたりしないよね?


「カリスは俺の宝物だ。痛いことはしないさ」


 笑いながらパパが指差す先に、両手を広げても抱えきれないお花が咲いていた。もう街じゃない。人はあまりいなくて、遠くまでお花が咲いてる。黄色と赤、青もある。白が揺れて、緑の葉もきらきらしていた。


「ここは公園として整備されている。散歩してみるか?」


「うん! 触っていいの?」


「ああ、好きなだけ。摘んでもいいぞ」


 折って摘むとすぐ枯れちゃうし、他の人が見れなくなるから我慢する。下ろしてもらって手を繋いで歩いた。お花を踏まないよう、道が作ってある。そこをパパと並んで歩くと頬が緩んできた。


 僕が暗くなったから、パパが心配したんだ。パパを僕は大好きだけど、パパも僕を好きなんだね。気にしてくれてありがとう。お花をたくさん見て、手で触って、ごめんねって謝って1本だけ摘んだ。パパが僕の襟に飾ってくれる。揺れるたびにいい香りがして、僕はパパとお城へ帰る。帰れる場所があるの、すごく幸せだな。

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