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53.お母さんはいらない。パパがいればいい

 お店の人が説明したけど、僕はよく分からなかった。聞いたパパが僕を小さな椅子の上に下ろす。お店の前にあったんだよ。僕は青い椅子で、パパは椅子は無理だって。お店の人が奥から自分の椅子を貸してくれた。いい人だ!


「この平べったいのは薄焼きという。これに筆で絵を描くんだ。その上にお菓子を掛けると貼り付く」


 濡れた筆で絵を描いて、乾く前にお菓子を掛ける。僕にも出来そう。他にも小さな子が来て、握っていたお金を払った。僕はパパが払ってる。今度は僕もお金を自分で払ってみたいな。


「まずは1枚、俺の分を描いてくれ。次はカリスの分だ。他の奴に土産も買うか?」


「うん! 2枚描いたら、違うお土産もみたい」


 後ろにもいっぱいお店がある。僕はあちこち見てみたいんだ。全部買わなくてもいいの。大切なパパと一緒にいろいろ見るのが嬉しい。隣の子はもう絵を描いていた。この子、お肌がお魚さんみたい。きらきらしてる。


「後で教えてやろう」


「わかった」


 僕は筆を手に取る。つける色は赤と黄色があった。薄焼きは白っぽいけど茶色だから、赤にする。筆に色をつけて、お城の絵を描いた。パパが住んでるお城に、お店の人が差し出したお菓子を掛ける。粉になってて、さらさらしてた。薄焼きを斜めにしてから掛けるんだって。くっつかなかったお菓子は下に置いたお皿に落ちる。


 うまくお菓子がつかない場所は、もう一度筆で色を塗るとついた。隣の子が教えてくれたの。


「ありがとう、できた」


「おう、よかったな。お前……絵がうめぇな」


 うめぇって何だろう。


「上手だと褒めたんだ」


「ほんとう!? 嬉しい。僕、君の絵も好きだよ。それお魚でしょう?」


「お、おう。またな」


 急いで帰っちゃった。向こうで手を振ってる女の人がぺこっと頭を下げて、あの子と手を繋いで歩く。その後ろ姿が、見えなくなるまで目を逸らせなかった。


「あれ、お母さん?」


「そうだろうな。お母さんが欲しいか?」


 パパが聞いた声に、僕は勢いよく首を横に振った。


「いらない。パパがいればいい」


 お母さんは奥様になって、僕を殴るからいらない。もう会いたくない。きゅっと唇を尖らせて、描いた絵をお店の人が袋に入れるのを見ていた。パパが僕の髪を撫でて、手を開かせる。手のひらの上にお金が置かれた。


「これで自分の絵を描くといい」


「ありがとう」


 さっきの子が僕の絵を褒めてくれた。今度は何を描こうかな。振り返ってパパを見て、パパと僕を描く。でも薄焼きはベタベタ色を塗ると柔らかくなるから、線だけ書くんだって。お店の人に教わりながら、パパと僕を描き終えた。お菓子を掛けてもらう。星の形だったり、小さなきらきらの粒が僕とパパの形になる。


 これも透明の袋に入れてもらい、パパが一緒に持ってくれた。割れると危ないから、パパに任せる。次のお店はどこかな。


「これは俺のお勧めだぞ」


 ふわふわの雲を売ってるお店で足を止める。丸い器の中から雲が出てくるの。薄いピンクや白、違う色も出来るんだって。お土産用を先に作ってもらい、パパが受け取る。僕はいっぱいの色がついた雲を受け取った。棒が差してある。握って雲を見ていると、パパがぱくりと齧った。


「この雲は食べられるの?」


「綿飴という菓子だ。食ってみろ」


 パパの真似をしてがぶっと食ったら、すごく甘かった。僕これ大好き!

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