49.僕が描くと喜んでくれる
食べ終わったら、僕は文字を書く黒い板と白い棒を片付けた。ちゃんと片付ける場所を作ってもらったの。パパの机の一番下の引き出しだよ。開いて中に入ってる絵を描く道具を取り出した。色のついた棒が入った箱。代わりに黒い板を置く。空いてる右側に白い棒を並べた。
「片付けた」
「良くできたな」
「立派ですよ」
パパもアガレスも褒めてくれる。取り出した箱を持って歩いた僕は、白い紙が並んだ床に座った。床の上の方が絵を描きやすいの。足を揃えて座った後、ぺたんと真ん中にお尻を落として足を広げる。両側に足があれば床に顔を近づけても平気。
「体が柔らかい」
パパが感心したみたいに呟く。柔らかいのかな? よく分からないけど、ペタンと胸までくっつくよ。やって見せたら、驚いた顔だった。アガレスもびっくりしてる。二人は出来ない?
「今日は何の絵を描くんだ?」
「えっとね。パパと僕、それからアガレス、皆も順番に描くの」
全員を描いた絵は壁にあるから、皆に持って帰れる絵を描こうと思う。白い紙にパパの黒い髪から描いた。ツノと目も描いて、パパに抱っこされた僕も描く。肌の色を塗って、お洋服も。後ろに僕が知ってるお花を足した。
赤いお花と黄色いお花、あと白いお花は何色で塗ったらいいんだろう。迷って、薄い青で描いた。灰色でもいいけど、僕の髪にいっぱい使ったから、同じ色はやめる。描き終えて、仕事してるパパの方を振り返った。すぐに気づいて僕に優しい目を向けてくれる。
「どれ、描けたか? これは立派だ」
仕事の手を止めて絵を受け取り、パパが嬉しそうに笑う。僕を引き寄せて頬を擦り寄せた。僕もパパに抱き着いて、絵の説明をする。赤い花は僕が初めて摘んだ花で、白い花や黄色の花は庭にあった。僕が知ってるのはそのくらい。お部屋にあるピンクの蕾は、ピンクの花が咲くのかな。蕾も膨らんで大きくなったから、もうすぐ咲くと聞いた。楽しみだね。
「ピンクの花が咲いたら、ここに描いてくれるか?」
隙間が空いてる場所を指差すパパに頷く。
「僕、ピンクの花描きたい!」
「この絵は寝てる部屋に飾ろう」
絵はお部屋に持って帰ることになった。今度はアガレスを描く。まだ文字は書けないけど、絵は描けるよ。黒い毛皮の狼さんで、三角のお耳を上に付けた。後ろに尻尾も描いて、お洋服や目の色を塗ったら終わり。お手手を肌の色に塗って、僕は絵を持ち上げる。少し先の机でお仕事するアガレスを見て、絵を見て……何か違った。
じっくり何度も確認したら分かったよ。メガネしてる! 黒は毛皮と同じ色だから、灰色で描いた。丸や棒を付け足して、やっとアガレスになったね。
「アガレスも描いた」
「見せてください。これはこれは、そっくりですね。メガネも描いてくださったのですか。ありがとうございます」
嬉しそうに受け取ってくれた。
「今度はアガレスの名前の字を覚えて、そこに書くね」
僕が書き足す約束をしたら、是非お願いしますと答えたの。アガレスが喜んでくれてよかった。