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48.何でもパパと一緒がいいから

 パパがお仕事の難しい書類を書いている横で、僕は文字を書く。黒い板に白い棒でがりがりと書いて、消してまた書いた。僕の名前カリスとパパのバエルは見なくても書けるようになったよ。見本の文字があると、もっと上手に書けるけど。


 次はアガレスの名前かと思ったら、ゲーティアを覚えるんだって。国の名前で、ここのお城がある場所のことだよ。奥様がいた家はお屋敷だったけど、ここはお城なの。違いは王様がいるかどうか。僕は聞いたことを繰り返して、しっかり頭に刻んだ。パパは王様だから、パパが住んでる場所は全部お城!


 ゲーティアは字がいっぱい。ゲの小さな右上の文字は、バエルのバと同じ形だった。一文字ずつしっかり書く。隣の見本を何回も見て、がりがりと棒を動かした。いっぱいあると難しい。


「お昼だぞ」


 パパにぽんと頭の上を叩かれて、棒を黒い板の上に置いた。パパの叩くのは痛くない。汚れた手を拭いてもらい、パパのお膝に座った。僕はいつもパパの膝に乗るのに、どうしてアガレスは椅子をいっぱい用意するのかな。こてりと首を傾げたら、パパが「その通りだ」って笑った。


 お昼は丸いパン。平らな形だけどふわふわして高さがある。そこに蜜や牛のバターを乗せた。とろりと溶けて吸い込まれていく。


「手で食べていいぞ」


 アガレスは怒らない。あ、叱ると怒るの違いも教えてもらったの。叱るのはちゃんと覚えてもらうために教えること、それ以外に叫んだり怒鳴ったり叩くのは怒ってる。区別ができたら、僕にもわかった。奥様は怒ってて、アガレスは叱ってる。僕やパパが良くなるように叱るの。嫌われちゃうかも? って怖くないのはすごい。


 パパもちゃんと分かってるから、アガレスを嫌いにならないんだね。僕もパパが教えてくれるのは、怖くない。でも叱られたのとは違うかも。


 見ているとパパが先に手で掴んで、くるくる巻いた。大きい筒をがぶっと齧る。僕も真似して巻いたら、大きくて口に入らなかった。笑いながらパパが半分に切ってくれて、それを巻いて食べる。


「甘くて美味しい!」


「パンケーキだ。セーレはカリスのことが大好きなんだな」


 甘いものが好きだから、甘くて美味しいご飯を用意してくれたんだね。セーレは牛の姿で大きくて、すごく温かい手をしてた。あの手が美味しいご飯を作る。僕はセーレもセーレの手も好き。


 パパと食べたら、美味しいのもいっぱいになる。ばーんて膨らんで、胸に広がってお腹いっぱいになるよ。微笑んだパパが僕の頬についたパンケーキの欠片を摘んで、ひょいっと口に入れた。僕と同じものを食べてくれたのは、パパが初めてだった。今回のも初めて。擽ったくてドキドキする。


 僕もやりたい。そう思って待ってるのに、パパのほっぺにパンケーキはつかなかった。でも肉を食べたときにソースがついたから、すぐに背伸びして首に手を絡める。ぎゅっと抱きついて、パパの頬のソースを舐めた。


「カ、カリス?」


「なぁに?」


「……あ、ありがとう」


 パパのお顔が真っ赤になった。向かいのアガレスも真っ赤だよ。このお部屋、暑いのかな? 僕は平気なのに、変なの。

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