46.たくさんの御呪いと魔法
僕は今、一生懸命掴まってる。手がもう無理かも。
「何をしている?! カリス、すぐに助けるからな」
パパの声だ。安心したら、手から力が抜けちゃった。ずるりと滑る指先に慌てて力を込めたけど、間に合わない。ここから落ちたらすごく痛い。覚悟してぎゅっと目を閉じた。
いつまでも痛くならないし、落ちてない気がする。そっと目を開いたら、僕は浮いていた。ふわりと空に浮いたパパが、僕をしっかり抱き締める。でもパパが僕を捕まえる前に、もう僕は浮いていたよ?
「我ら悪魔は魔法が使える。大切な息子にケガをさせるわけがあるまい」
ケガをしないように守ってくれたの? 僕を? 何も出来ないのに、いいの? 僕の銀髪を撫でるパパの手が気持ちいい。ふにゃふにゃになりそう。
「ここで何をしていたのだ?」
「パパがいないから探してたの」
「っ! そ、うか。それは悪かった」
首を横に振る。パパはお仕事もあるし、偉い人だから忙しい。僕が勝手に探したんだよ。目が覚めたら、ベッドに僕だけ寝てて、お部屋に誰もいなかった。怖くないし、寒くないけど、ぎゅっとして欲しかったの。それで窓のカーテンが揺れてたから外を覗いたら、滑って落ちた。途中で掴まったけど、上に戻れなかったからありがとう。
「あ、パパ。僕ね、狼のお人形落としちゃったの」
「あれか」
パパが指先でおいでってしたら、ふわりと浮いて僕の手に飛び込んだ。すごい! 魔法ってこんな風に使えるんだね。さっき落ちた僕を捕まえてくれたのも、パパの魔法だったの?
「助けてくれて、ありがとう」
「……落ちても助かったであろうな。これだけ重ね掛けした子も珍しい」
重ね掛けって何? 首を傾げると、窓からお部屋に入ったパパが教えてくれた。ケガをしない御呪いはアガレスで、マルバスから受け取った首飾りはお守り。それに健康になるようお祈りしたお菓子を食べた僕は、寒い思いをしないアモンのお願いが入った服を着てるんだって。
いっぱいだね。
「俺もカリスにいくつか御呪いをしてある」
いなくなっても探せるのと、ケガをしたら分かるやつ、後は僕が怖くなったらパパを呼ぶと繋がるみたい。この辺はよく分からないけど、一人が嫌な時は「パパ、来て
」と心で読んだら聞こえる。次は覚えておいて、窓から探さない様にするね。
「窓は何らかの手を講じよう。カリスがケガをしたら大変だ」
「もうやらないよ」
「カリスがしてはいけないことなどない。大切な子どもがケガをしないよう守り、気を配るのが父親の役目だ。守らせてくれるか?」
「……うん! 僕、パパに守られたい」
「よし任せろ」
ぎゅっと抱き締められて、いつもより力が入ってて苦しい。でもこの感じが嬉しかった。こんなに近くで僕を抱っこしてくれる人は、他に知らない。温かいな。手を伸ばしてパパを抱っこしたいのに、僕の手は短かった。めいっぱい伸ばした指先がパパに届いて、指先で服の端を摘む。
ご飯にするので運んでもらった。準備してたら、僕が落ちそうになった話を知ってるアガレスが来て、パパを怒る。
「ダメ、落ちた僕がいけないの。パパを怒らないで」
「叱っているのですよ。今日のお勉強では、叱ると怒るの違いを覚えましょうね」
「う、うん」
よく分からないけど、新しい言葉を教えてもらう約束をした。