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43.ありがとうをいっぱい言いたくて

 ご飯を作っている人は、たくさんの階段を降りた先にいた。火や水を使うから、お外に近い場所がいいんだよ。パパに教えてもらった。


 ご飯を作ってくれたのは、大きな体のおばさんだった。牛の魔族で小さいツノと小さい耳が並んでる。黒と白が混じった毛皮の人だよ。優しい黒い目をしていた。


「いつもご飯、ありがとうです。僕はカリス、パパの息子です」


 アガレスが教えた挨拶を口にする。名前の後に、家族の名前を入れたりするんだって。魔族のしきたり? みたい。しきたりって何かな。きっと決まり事かも。入れないと誰の子だか分からないと言ってた。僕はパパの子になってお披露目したけど、名乗るのは礼儀なんだよ。


 相手の人をちゃんと認めたら、お名前を教えていいの。意地悪な人や名前を教えない人には、教えないのが決まりだった。覚えた通り、きちんと頭を下げる。ぺこっと下げた頭を上げると、パパが嬉しそうだった。


「よくできたぞ」


「うん」


「可愛い坊ちゃんですね。賢くて、陛下のご子息に相応しい方です。セーレと言います」


 牛の人は僕にお名前を教えてくれた。認めたら教えるのが決まりだから、僕を嫌いじゃない証拠だ。にこにこ笑ったら、セーレも笑った。近くに置いてあった小さな箱を持ち上げ、僕に差し出す。その箱とセーレの顔を交互に見た。


「お菓子ですよ、どうぞ」


「貰っておけ。悪いな、セーレ」


 パパが許可した箱を受け取る。顔に近づけて匂いを嗅ぐと美味しそう。


「ありがとう、嬉しい」


 セーレをなんて呼んでいいか分からないから、お名前は呼ばなかった。様を付けるのか、呼び捨てか分からない。今度パパに聞いておこう。箱は僕が両手で持つ大きさなのに、セーレが持つと小さかった。受け取ってびっくりしたの。いっぱい入ってるみたい。


「坊ちゃん、セーレと呼んでもらえますか?」


「うん、セーレ。僕はカリスだよ」


 坊ちゃんじゃないの。そう告げたら困った顔をしてパパを見る。一緒に見上げたら、パパが笑った。


「俺の息子を、坊ちゃんと呼んだんだ。名前じゃないが、カリスだけの呼び方だな」


 僕だけを呼ぶ言葉なの? じゃあ、坊ちゃんでもいいや。パパの息子だからよぶんだもん。僕、嬉しいよ。そう話したら、セーレはほっとした顔だった。頼んで、毛皮を撫でさせてもらった。腕も顔も毛が覆ってる。牛の格好だけど、ちゃんと手は指があった。僕の手を乗せて大きさを比べたら、全然違う。僕の手はすっぽり入っちゃった。


「僕ね、温かいご飯も痛くないご飯もここに来て食べたの。すごく美味しいし、嬉しいし、ここがぽかぽかする。ありがとうをいっぱい言いたくて来たんだよ。今日は卵のオムレチュ? 美味しかった! あんなふわふわは初めて食べたし、プリンも甘くて好き」


 胸を指差して話す僕の言葉を、頷きながら聞いているセーレが目を擦った。どうしよう、僕……セーレを泣かせちゃった!


「パパっ」


「心配しなくていい。セーレはお礼が嬉しかったんだ、そうだな?」


「え、ええ! そうですとも。嬉しすぎて泣いてしまいました」


 セーレが笑った。まだ目が濡れてるけど、僕を見て笑うから安心する。よかった、何か悪いこと言ったかと思った。


 僕はもう一度お礼を言って、パパに抱っこされたままお部屋に帰った。

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