41.ご飯のお礼が言いたいな
寝る前に絵本を眺める。昨日はバエルが読んでくれた。優しい声で、僕は嬉しくなる。時々尋ねるから答えて、絵本の絵を指さしたりした。話をしながら絵本を読んで、途中で寝ちゃったみたい。目をごしごし擦って我慢したけど、ダメだった。
最後まで聞きたかったのに。パパ、怒ってないといいな。
「おはよう、カリス」
朝の光に起きた僕は、パパに抱っこされた。膝の上に座った形で、絵本を僕の前で開く。昨日読んだところから、続きを聞かせてくれたの。優しい声と綺麗な色の絵本は、とっても楽しかった。
「ありがとう。パパ」
途中で寝ちゃった僕を怒ってなかった。最後までちゃんと聞かせてくれて嬉しい。おしまいの言葉を聞いて、パパを振り返った。両手を広げて抱きつく。ぎゅっと抱っこされて、ドキドキした。パパもドキドキしてる。
「寝たら続きは明日のお楽しみだ。それも悪くないだろう」
物語の続きを夢に見るかもしれないぞ。そう言われたら、楽しみになった。夢はいつも真っ暗だったり、怖い奥様達が出てきた。でも色がついた絵本の夢が見られるなら、楽しみだよ。
今日はお部屋から出ない日なので、黄色いヒヨコの服を着た。頭の上に嘴が付いてる。後ろに羽がひらひらしてた。
「パパとお揃い!」
「そうだ、他の人に言ったらダメだぞ」
あっ! パパに翼があるって言ったらいけないんだっけ。忘れちゃってた。言ってくれてありがとう。翼が付いてるのに、僕は抱っこされて移動する。ずっとパパと一緒の約束だもん。
いつもと同じ、猫の耳があるお姉さんがご飯を運ぶ。並んだご飯の横にあるスプーンを握った。ご飯の時は右手に持つ約束なの。それからパパの準備が出来るのを待つ。お膝に座って魔法で近づいたお皿を覗いた。
黄色い卵の塊に赤いのが掛かってる。隣のスープは薄い茶色だった。浮いてるのは何かな。パンは真っ白で丸い。あと……見たことがない器があった。蓋があって、パパはそれを「後で」と遠ざける。食べるのに順番があるの?
「スープは玉ねぎか。甘いぞ、ほら……あーん」
口を開く。先にパパが味見して、火傷しないように冷ましてある。痛くないし、怖くないから口を開けた。少し塩の味がして……甘い。口の中の玉ねぎを食べながら頷くと、パパもまた一口。交互に食べるんだよ。一緒に食べる約束だから、いつも同じ。
卵の塊は、オムレツという名前だった。ご飯にも名前があるから、覚えておくと食べたい時にお願いできると聞いた。赤い部分は酸っぱくて、でも美味しい。サラダに乗ってる赤い野菜と同じ味だ。
白いパンを左手に持って齧り、右手のスプーンを立てる。口を開けるとオムレツが入った。もぐもぐしながら、パパにもパンを差し出す。僕の持ってるパンを齧った!
綺麗なパパ、僕の持ってるパンでも汚いって言わない。中も外も全部綺麗な人だよ。僕はパパに会えてよかった。一緒の約束をして嬉しいし、楽しい。
「今日は城の中を案内しよう。食事を作る場所も、宝物がある部屋もあるぞ」
ご飯を作る人に会える? いつも美味しいのありがとうって伝えるの。噛んでも痛くなくて、お腹が苦しくならないご飯を作る人に、お礼が言いたいんだ。
「……っ、そうか。礼を伝えたら喜ぶ」
どうしたんだろう、パパ。泣きそうなお顔をしてるよ?