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40.僕は初めて絵を描いた

 名前の練習をいっぱいして、やっとパパの名前が書けた。まだ見本と違うけど、近づいたと思う。持ち上げて見せたら、パパが嬉しそうに笑った。


「これは見事だ。そうは思わんか? アガレス」


「立派ですね。きちんと読めますし、細部まで丁寧に書かれています」


 二人が褒める。その言葉が嬉しくてにこにこ笑うと、笑顔が返ってきた。パパは黒い板に書いた字を重ねた紙に写した。そんな方法があるなんて知らなかった。上手に書けたから、残しておくみたい。明日はもっと上手に書けるように頑張る。


「いっぱい書いたら、もっとうまくなる?」


 見本のパパの字はとても綺麗。アガレスが書いた僕の名前も綺麗な字だった。僕も同じように書きたいの。そう説明したら、アガレスが僕の目を覗き込んだ。透き通ったお日様色の目が僕を映す。


「練習すれば上手になります。一度に勉強しすぎると疲れますから、ゆっくり覚えましょう」


「うん」


 ゆっくりより、ちょっとだけ早く覚えたい。でもアガレスは疲れるって言った。きっと僕が疲れないように考えてくれたの。だから頷く。僕ね、心配されると胸の辺りがうずうずするんだ。パパと出会うまで、心配されたことない。どんな風にすればいいか困るけど、心配は嫌いじゃないよ。


「ならば絵を描くか」


 パパが僕を膝に乗せた。お仕事の紙には文字が書いてある。時々、名前と同じ字が入ってるけど、知らない字ばかりで難しそうだった。これを読んでお返事書くの、パパは大変だね。


 隣に用意された白い紙と、いろんな色の細長い棒……色鉛筆だ。これは知ってるよ。前に見たことがあるの。子どもが持ってて、絵を描いてた。パパも絵を描くと言ったから、これで色をつけるんだね。顔を上げた僕に、パパが頷いた。


「そうだ、カリスは賢い。好きな色で、好きな物を描いてみろ」


 好きな物……パパ、ご飯、アガレス、アモンやマルバスも。もらったお花も絵本も好き。そうだ! 絵本みたいに皆を描こう。まずは黒い色を手にする。パパの髪の色だよ。


 ぐりぐりと色を塗って、パパを見ながら黒を置いた。銀色はないから、灰色にする。それでツノと目を描いて、顔も色を塗った。今度はアガレスだね。毛皮の感じが難しいの。ぶわぶわに見えるようにぐるぐる回した。目の色は黄色かな。本物と違う色になるけど、後で分かるかな。


 アモンもマルバスも描いて、外へはみ出しちゃったけど終わった。赤い色を置くと、パパが覗き込む。それから僕を見てもう一度絵に視線を戻した。


「カリスがおらんぞ」


「僕も?」


「そうだ。カリスが一緒でなくては、俺が寂しい」


 アガレスもマルバスも、アモンも描いたのに寂しいの? 僕が一緒の方がいいって。嬉しくなる。口が自然と緩んで、開いちゃいそう。頑張って閉じたけど、結局笑っちゃった。


「うん、描く!」


「絵の中でも抱っこしてやろう」


 パパがそう言うから、絵のパパの前に僕を描いた。僕の色は銀色の代わりの灰色と、目の色は……えっと。


「これだ」


 青をもらった。空の色より濃い青を塗る。自分の手を見て顔の色を選んだ。最後に覚えたばかりの名前を書く。カリス、バエル。他の名前は覚えたら後から書くね。


「おお! これは素晴らしい。アガレス、額を用意しろ」


「とっくに用意してあります」


 魔法みたいにアガレスがぽんと四角い縁を出した。平べったいその中に絵を入れたら、壁に飾られる。お外を描いた絵を奥様が飾ってたけど、僕の絵でもいいのかな。


「カリスの絵がいいんだ」


 前に飾ってた壺にお花が刺さった絵は片付けられた。僕の絵はパパのお仕事の机からよく見える。これもずっと一緒のひとつだね。パパに抱っこされた僕は、絵の中でもパパに抱っこされてる。頬擦りしたら顔にキスをいっぱいもらった。

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