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36.昔聞いた神様みたいだね

 今日のお勉強が終わると、すぐにパパがお迎えにきた。僕を抱っこして頬擦りする。長い黒髪を掴むと安心するの。銀のツノと瞳がすごく綺麗。いつも優しい笑顔で僕を見てる。


「カリスに綺麗に見えるなら、それでよい」


 パパは難しいことを言う。僕以外の人はパパを綺麗だと思わないのかな。僕はこんなに綺麗な人を知らないのに。それに優しい。あと温かくて、僕を叩かなくて、好きって言ってくれるの。奥様に捨てられた僕を拾って、子どもにしてくれた。


 昔聞いた神様みたい。


「神か……」


 変な顔をするパパに説明する。


「神様は皆を幸せにする優しい人と聞いたよ。僕はまだ会ってないけど、会えたらパパと幸せになりたいとお願いするの」


「そうか」


 優しく銀髪を撫でるパパの手が一瞬止まって、少し悲しそうな顔をした。でもすぐにまた髪を撫でてくれる。指で梳いてから後ろで結んだ。僕もパパみたいに伸ばすんだ。ぼさぼさした部分はまた切るけど、その後は長くするの。パパと少しでも同じがいいから。


「お風呂に入って食事にするぞ」


「わかった!」


 お風呂は泡を作って体や髪を洗う場所。あと温かい水に浸かるんだ。そうしたら疲れが取れると聞いた。僕は疲れはわからない。でも気持ちいいよ。お風呂に入ると泡のいい匂いもするから好き。パパと同じ匂いの泡で体を洗う。


「流すから目を閉じてろ」


 髪を洗ったパパに言われて、ぎゅっと目を閉じる。上から温かい水がかかった。お湯だよ。泡を流したら、今度は池みたいな湯船に浸かる。僕が座ると沈む深さなので、いつもパパの膝の上だった。


「少し大きくなったか?」


 いつもと違うと笑うパパが、僕の体をあちこち擽る。声を上げて笑いばしゃばしゃお湯を叩いても、パパは怒ったりしなかった。楽しい、でも擽ったい。騒いでいるとアガレスが迎えにきた。


「いつまで遊んでるんですか。食事が冷めます」


 ご飯が冷たくなっちゃうの? 大事件だよ、パパ。慌てて出ようとした僕の尻を支えたパパに抱き上げられ、魔法で乾かしてもらう。タオルと同じふわふわの服を被った。今日は兎さん。長い耳が両側に垂れている。狼のぬいぐるみを抱っこした。これはアガレスみたいで好きなの。


「お、うまそうだ」


「うまいの好き」


「……ですから、カリス様に言葉が移ります。美味しいと言ってください」


「すまん」


 またパパが怒られちゃった。僕に何か移るんだって。パパが取ってくれたのは、白いふわふわしてそうな四角い物。口を開けたら中に転がった。噛まなくてもくちゃんと潰れて、ふわっと豆の匂いがする。


「これうまい」


「美味しいと言ってごらん」


 パパはアガレスが言ったことを気にしてるみたい。僕が「美味しい」と言い直したら、にこにこしてる。アガレスも嬉しそうだから、僕も一緒に笑った。笑っても叩かれたり怒られないのが、嬉しいな。


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