33.暖かくて気持ちいい魔力
「チョコレートという菓子だ」
まだアガレスが難しいお話をしてるから、こっそり教えてくれた。パパは甘い物をたくさん持ってる。僕の口にまた黒いお菓子を入れた。これがチョコレート? 名前は知ってるよ、奥様が好きだった。
「奥様とやらの話はダメだぞ。俺に出会う前のことだからな」
パパに出会う前の話はいけない。頷いた。僕、ちゃんと覚えられるよ。それに奥様は僕を嫌いだった。僕がパパの子になったから、もう会うこともないよね。
「ああ、もう会うことはない」
「うん。僕はパパがいればいいよ」
笑ったら、パパが可愛いと頬擦りした。またテラスの下の人達が大声で僕を呼んでる。嬉しくなって手を振った。声が聞こえた右も、左も、向こうの方も。手が疲れるくらい振る。こんなに嬉しいのは、皆が僕の名前を覚えて呼んでるから。前は名前なかったし、誰も呼んでくれなかった。たまに呼ばれると痛い思いしたけど、今は違う。
アガレスのお話が終わって、手を振りながら抱っこされてカーテンの中に入った。お外が明るかったから、目が見えなくなる。真っ暗だ。ぱちぱちと瞬きしてたら、すぐ見えるようになった。アモンが嬉しそうに頬を突く。
「カリスちゃんったら、皆をもう虜にしたのね。可愛いって罪だわ」
「可愛いのは罪なの?」
「カリスちゃんの場合はね、可愛いがいっぱいすぎるの」
分かりやすく説明してくれたんだと思うけど、よく分からなかった。僕は知らない言葉もあるし、後でパパに教えてもらおう。
「カリスは人気者だ。愛される子だからな」
愛されるは優しくされるのと同じ。また黒いチョコレートをもらった。今度は白い飾りがついてる。口に入れると中から違う味が出てきた。びっくり。外が黒くても違う味もあるだね。これは木の実の味?
「よくわかった」
うん、お腹すいた時に落ちてた木の実はよく食べたの。拾って食べても大丈夫なのと、お腹痛くなるのがあるんだよ。
「……腹を壊すから今後は拾って食べるな。いくらでも食べ物はある」
変なパパ。いつも一緒でお腹いっぱいだから、拾ったりしないよ。お腹が減って、食べ物がない時に拾うの。だから、パパと一緒になってから拾ってない。餌じゃなくて、美味しいご飯をもらえるもん。
「下に降りるか」
パパが突然違う話をする。下に降りると、さっきの人達と会える?
「ああ、皆喜ぶに違いない」
「まだ早くないですか?」
アガレスは反対なの? どうしよう、パパは降りる話をしてるし、アガレスはダメっぽい。僕はどうしたいんだろう。
「俺が抱いたカリスに害を加える者はおらん」
「それは……そうですが」
アガレスは苦笑いして、僕の髪を撫でた。それから降りてもいいと笑う。今、アガレスが触った時ふわりとした。暖かくて気持ちいい。
「ありがと、アガレス」
「まさか、気づいて?」
アガレスは何を驚いたの? あれ? パパやアモンも驚いた顔だ。僕、変なこと言ったのかも。しょんぼりしたら、パパが強く抱き締めてくれた。
「驚いた。アガレスの指先に何を感じた?」
「うんとね、暖かかった。あと、なんか気持ちがいいの」
うまく説明できないけど、抱っこされた時みたいな感じ。手を動かして話したら、魔力を感じたのだろうと教えてもらった。魔力は暖かいんだね。知らなかった。
ところで、魔力って何?