32.僕は皆に嫌われてないんだよ
部屋を出たら、アガレスが待っていた。今日は裾の長い上着を着てる。狼の毛皮も艶があるね。ブラシしたのかな。僕の髪もブラシしてもらったの。
「可愛いですね、カリス……いえ、カリス様」
「どうして様なの?」
呼び直したアガレスに問うと、目線を合わせてしゃがんでから答えてくれた。
「主君の息子は、偉い人に分類されるんですよ。それに私はカリス様が可愛くて、大好きですから、そう呼ばせてください」
難しいね。パパが偉くても、僕は偉くないのに。でもアガレスが呼びたいなら、僕は我慢する。もっと仲良くなって、様を取ってもらえるように頑張るね。説明したら、くすくす笑って「楽しみにしています」って約束してくれた。
アモンのお姉さんが来た。大きいお胸が溢れそうな服だし、脚も見えてるよ? ドレスって名前のお洋服みたい。奥様もドレスだったけど、ちょっと形が違う。いろんな形があるなら、全部は覚えられないかも。
「まぁああ! やっぱり可愛い。さすがはカリスちゃんね。本当によく似合うわ。作りがいがある!」
手を叩いて喜んでる。服が似合うって、僕が可愛いって。パパだけじゃなくて、アガレスもアモンも言ってくれたのが嬉しい。
「おっと出遅れた。カリス様、これをどうぞ」
マルバスが走ってきて、首飾りをくれた。透明な丸い石が付いている。まん丸の石を何かの爪が掴んでる形で、鎖に繋がってた。すごく綺麗、透明で向こう側が見える。持ち上げて中を覗いていると、上でパパが何か話していた。顔を上げると、微笑んで僕を抱き上げる。
「さあ、お披露目だ。たくさんいるから、皆に手を振ってやるのだぞ」
「うん!」
手を振るのは出来る。抱っこされた僕はカーテンの先の大きな声にびっくりした。パパを呼ぶ声がするの。大勢だよ! いっぱいの人がパパの名前が入った言葉を叫んでいた。
「魔皇帝バエル陛下、万歳!」
「我らがバエル陛下の御世に、繁栄を!」
意味はよく分からない。でも皆がパパを好きなのは伝わった。興奮してる人達の声に、僕も興奮しちゃう。わくわくしながら、カーテンの向こうへ足を進めるパパに抱き着いた。暗い色のカーテンの先は、明るい。
大きな声が「わぁあ!」って広がって、拍手が聞こえたり、パパの名前を叫ぶ人がいっぱい。ここは高い場所で、手摺りがある出っ張った窓みたいだった。そこからパパが手を振ると、皆が大きく振り返す。すごい、僕のパパは人気者だ。
「静まれ、我が息子を紹介しよう。繁栄の光をもたらすカリスだ」
今度は僕の名前を呼んでくれる人がいる。嬉しくなって、あちこちに手を振った。その度に声が聞こえて、僕は興奮する。この人達は僕を嫌いじゃなくて、パパの子だって思ってくれた。少しして、アガレスが難しい話をし始める。静まった人達はそれを聞いて、時々声を上げた。
興奮しすぎた僕はほとんど聞いてなくて、頭がいろんな声でいっぱい。溢れそう。両手で耳を塞いで出ないようにしてたら、笑ったパパが飴じゃない甘いのを口に入れた。とろりと溶ける黒いお菓子はちょっと苦い。僕、これ好きだよ。パパの次のアガレスの次の……えっと、マルバスやアモンの次くらいに好き。




