30.たくさんの初めて
僕の肌にあった汚い色は消えて、痛くなかった。起きたら綺麗になってて、パパも喜んでくれる。手足を動かしても痛くないの!
パパがお散歩に行くと言った。今日の僕はアモンが持ってきた新しい服を着ている。ひらひらした飾りがいっぱいついたシャツ、赤い色のリボンを巻いた。下は膝まで隠れるズボン。ぶかぶかだけど、こういうお洋服なんだって。
すとんと太いズボンを履いて、靴下は白。靴は黒だった。ズボンも黒だった。パパの髪と同じ色だ。それから銀色の飾りを胸に付けた。これで終わり。パパが可愛いと褒める。アモンに言われてくるりと回ったら、アガレスやマルバスも褒めてくれた。
「カリスは何を着ても似合う」
「本当によくお似合いです、魔皇帝の立派な御子息ですよ」
僕、ちゃんとパパの息子に見えてる? 頷くパパに抱き上げられて、初めて家の外に出た。この家に来てから、パパの部屋とお仕事の部屋しか見てない。階段を降りて、途中ですごく広い部屋があった。広間、と呼ぶんだよ。そこを通り過ぎると、廊下と階段が続いて、両側に扉がいっぱい並んでる。
最後に鱗のある人が守ってる扉を押して出た。すごく綺麗な場所だ。いっぱい岩が並んで、細かくて白い砂が広がってる。そこにいくつも緑が生えていた。
「きれぇ」
「この場所が綺麗か? 殺風景ではないか」
なぜかパパは不満そう。声がいつもより低いの。でも僕、ちゃんと外出たのは初めてだよ。前は捨てられた時だけだもん。暗くて窓がない場所にいたから、明るくて白い砂があって緑の木があるのは初めて。
「お外、初めて」
「そうか! いつでも俺と来られるぞ」
歩いてみたいけど、僕はまだ弱いからダメなの。もっとたくさんご飯を食べて、重くてパパが持てなくなったら下ろしてもらえる。アガレスがそう言ってた。
「持てなくはならないが、もう少し成長すれば歩いたほうが良かろうな」
パパに抱っこされて庭を周り、生えている花に気づいた。白い小さな花が揺れてる。
「パパ、あれ」
指差した僕にパパが教えてくれた。この砂ばかりの砂漠に咲く珍しい花、月光花が名前なんだよ。条件が揃うと咲くと教えてくれた。条件は大人の秘密みたい。僕も大きくなったら教えてもらおう。
緑はあちこちにあって、触ると柔らかい葉っぱばかり。食べ物はもっと上の方で育つから、この家がある場所は飾る葉っぱが生えてるの。振り返ったら大きなお家だった。何人住んでるんだろう。
「城には70人ほど住んでおる」
お城だったの? だから大きいんだね。僕、お城って初めてみた。パパと出会ってから、初めてがいっぱい。お庭にいた人は、鋭い牙が口から出てた。怖くないよ。ちゃんと挨拶して、僕に手を振ってくれたもの。このお城の人は僕を見て笑ったり、いきなり蹴ったりしない。優しい人ばかりのお城だった。
「カリスを傷つける者は誰もいない」
うん、このお城に来られて僕は嬉しい。一番嬉しいのは、パパと会えたこと。次に名前をもらえて契約したこと。ずっと一緒、一緒だからね。