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28.心が治るために見る夢

 パパの隣で絵本を見る。まだ文字は分からないので、ゆっくり捲った。全部見終えてもう一度捲り始めるけど、途中で眠ったみたい。


 うとうとする僕の頭の上で、アガレスとパパが話してる。


「あれはどうだ?」


「狂えないように調整しました。簡単に壊れては価値がありませんからね」


 何のお話だろう。気になって起きようとしたら、温かい手が僕の目を覆う。


「もう少し休んでいろ」


 パパの声だ。猫の服は暖かくて、気持ちいい。もぞもぞと姿勢を変えて横向きになると、また眠ってしまった。


 夢の中で、僕は見えない誰かに叩かれる。黒くて顔が見えない、声も聞こえない。でも叩く手に棒が握られてて、当たるとすごく痛かった。逃げようとするのに、髪を掴まれる。頭が痛くて丸くなったら背中に棒が落ちてきた。どうしよう、痛い。怖い。


「落ち着いて目を開けてみろ、カリスは一人ではない」


 言われたように、恐る恐る目を開く。また振り上げた棒が見えたらどうしよう。震えながら見つめる先に、優しい銀の瞳があった。僕を見つめて、ほわりと柔らかくなる。


「パパ?」


「そうだ。もう怖くない、助けに来たぞ」


 助けてくれるの? 夢の中でも、怖い人がいても、パパが助けてくれる?


「必ず助ける。カリスの声はいつも聞こえている。ずっと一緒の約束をしたであろう?」


 頬擦りされて嬉しくなる。手を伸ばして、パパの首に回した。こんなことしても叩かれない。手を振り払われないの。僕に痛いことも苦しいこともしない手が、髪を撫でた。その手が背中に移動して、ぽんぽんと動き続ける。痛くなくて、気持ちよかった。


「あの、ね。寝るのが怖い」


 前に叩かれたことや蹴られた日を夢に見るから。ご飯を食べて時間が経つと眠くなるけど、それが怖かった。パパに会う前は、何も夢を見なかったのに。今は怖い夢ばかり見る。


「俺のせいだな」


 柔らかい声に首を横に振る。


「怖い夢を見るのは、カリスの心がまだ傷ついてるからだ。ゆっくり治ろうとして、怖い夢を見る。その度に俺が起こしてやろう。悪い夢を食ってやるぞ」


 何かを掴んでぺろりと食べるフリをしたパパに、僕は驚いた。悪い夢を食べちゃうの? そうしたら悪い夢はなくなる。でもパパが怖い夢に襲われたらどうしよう。


「優しいいい子だ。俺は夢を食べても悪い夢を見ない。だから安心して任せろ」


 ちゅっと音を立てて額にキスをくれる。見上げるといつも通り綺麗なバエル。僕は知ってる、パパってお父さんのことだよね。僕を嫌わないで、好きだって言った。優しくて綺麗なパパ、僕の悪い夢もやっつけてね。


「うん、パパに任せる」


「いい子だ。ほら、もう一度眠ってごらん。俺も一緒に同じ夢を見よう」


 怖いけど頷く。僕を抱き上げたパパは書類の机から、ベッドに移動した。先に僕をふかふかの上に置いて、柔らかな狼を渡す。抱き締めた僕を、パパが腕の中に閉じ込めた。


「こうしていれば、悪い夢も追い払える。安心してたくさん眠れ」


 パパが一緒の夢に出てきますように。悪い夢じゃありませんように。お願いして目を閉じた。暗いのは怖いけど、後ろからパパの温かさが伝わってくる。今度は痛い夢じゃなさそう、眠りに落ちる直前にそう思った。

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