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26.私の子じゃないわ、悪魔の子よ!

 ダンタリオンが提出した後半の報告書は、目を通した全員が青褪めた。ダンタリオン本人は、まだカリスとの交流がない。見知った親しい存在ではなくとも、酷すぎると彼は目を伏せた。カリスの愛らしさや純粋さを知る我らの心を大きく抉り取る残酷な真実に、アガレスも言葉を失った。


「私と陛下で動きますか?」


「せっかくだ、参加者を募るとしよう」


 より多くの痛めつけ方が出来る。そう告げた俺の言葉に、全員が黒い笑みを浮かべた。同行を申し出たのは、この場にいた全員だ。魔国宰相アガレス、騎士団長アモン、魔国軍将軍マルバス、諜報部を統括するダンタリオン――人間風情に過剰戦力だが、仕方あるまい。それほどの罪を犯した罪人なのだ。魂の一片まで甚振ってやろうではないか。


「留守はウァサゴに任せる」


 宰相補佐を務めるウァサゴを指名し、立ち上がった。合図するまでもなく、全員が準備を整えて待つ。案内するかのようにダンタリオンが飛び、それぞれに空間移動した。この先に待つであろう、悍ましい女とその取り巻きを処理する。


 今まで話していた執務室から私室へ入り、眠り続けるカリスを抱き上げた。いくら安全であろうと、カリスを置いていく気はない。残酷な場面を見せる気がなくとも、手元から離す選択もなかった。苦痛の色がなく深く眠る幼子を抱き上げ、醜い己の姿に苦笑する。


 いずれ、カリスが闇に堕ちればこの姿を知るだろう。神罰を受けた我らの真実を知っても、もうそなたは逃げられない。ずっと一緒と誓ったのだからな。自嘲を浮かべ、柔らかな着ぐるみに包まれたカリスに頬を寄せた。ひとつ深呼吸をして、先に部下が向かった地点へ飛ぶ。


「な、なんなの!? あなた達っ!」


「ひっ、ひぃいい! 化け物だ!」


 悲鳴を上げる女は、裸だった。それなりに実った胸とまあまあ悪くないラインだ。人間の中ならば、評価される皮を纏っていた。だが悪魔には通用しない。表面をいかに取り繕おうと、美しく飾ろうと見えるのは裏の醜さのみ。このような女が、可愛いカリスに危害を加えたのか。湧き上がった怒りが屋敷を壊していく。


「陛下、落ち着いてください。こんな場所で殺したら勿体無いではないですか。もっと苦しめ、嘆かせ、死にたいと嘆くまで痛めつけ……死にたくないと最後に懇願するところを殺すのが、愉しいのですから」


 くつりと喉を震わせて笑う。なるほど、それならばここで殺す必要はあるまい。


「あっ……それが原因なの? 私の子じゃないわ、悪魔の子よ! 関係ないわ」


 カリスに気付き、金切り声で叫んだ女をダンタリオンが蹴り飛ばす。倒れたところを、マルバスが踏みつけた。徐々に力を入れて、肋を数本折る。顔色が青くなった女に、苦笑いしたアモンが治療を施した。まだ死なれては困ると呟きながら。それは絶望の宣言だった。簡単には死なせない。


「コキュートスの牢獄へ落とせ」


「ふふっ、久しぶりで腕が鳴ります」


 心底楽しそうに笑ったアガレスが、複雑な手順を踏んで一人ずつ転送していく。コキュートスの牢獄――入った人間はいても、出た人間はいない。魂も器も消滅を許されるまで、逃れられない場所だった。悪魔の処刑にも使われる地へ封じ、アガレスは機嫌よく切り出す。


「一番最初の悲鳴はお譲りしますが、その後は私にくださいね」


「あ、ずるい。私もやりたい!!」


 アモンが声を上げると、マルバスやダンタリオンも黙っていない。あっという間に順番が決まった。ゲーティアの奥深くにある牢獄へ、俺も久しぶりに足を踏み入れた。

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