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【サポーター特典SS】※2022/6/8公開

 月がすごく綺麗。パパと並んで空を見上げる。少し視線を横に動かすと、近い位置にあるパパの横顔に嬉しくなった。


「どうした、カリス」


「うん。僕が大きくなって、パパと並んでるのが嬉しい」


 皆は僕は体だけ大きくなって、中身はそのままと言うけど、ちゃんと中身も大きくなったよ。パパが読んで処理していた書類も、ちゃんと理解できるようになった。最近は仕事のお手伝いもしている。


「まだまだ子どもでいいぞ」


「ミカエル達も同じこと言うよね」


 僕は早く大きくなりたかった。パパと肩を並べて、一緒に仕事をしたり難しい話をして、お酒を飲みたいんだよ。


「酒か。以前にお菓子を作ってくれた時、舐めて酔っ払ったことがあったな」


 くすくす笑うパパの言葉に、僕は知らないフリをする。本当は覚えてるけど、恥ずかしいんだよ。すごく子どもだった気がするから。


「知らない」


「そうか? 俺は嬉しかったぞ」


 話しながらパパが取り出したのは、お酒が入った瓶。青い色の瓶は、猫の形をしていた。


「ニィみたい」


「ああ、そういえば猫の形だ」


 パパがにやりと笑う。僕が断らないように、猫の形の瓶を探したんじゃないかな。僕はパパと一緒なら、お酒を断らないのに。


「飲むか」


「うん。コップはこれでいい?」


 僕だって出来るよ。収納の魔法を覚えた僕の手に、するりとグラスが二つ。触れ合ってカチンと音を立てた。


「明日の予定は何か入ってたか」


「えっと、アガレスとアモンの出産祝いかな。3人目だったよ」


 アガレスとアモンは、ずっと仲のいい夫婦でいる。マルバスも結婚したけど、子どもはまだだった。魔族の出産率は徐々に改善していて、アガレス達みたいに3人目を産むとお祝いを持っていく。僕やパパの新しい仕事となっていた。


「なら、二日酔いにならぬ程度にしよう」


 ぽんっと軽い音で栓が飛んでいく。コルクは後で土に戻るから拾わなくてもいいけど、テラスの下にゴミを落としたらダメだよ。くすくす笑ったパパが魔法で回収した。


 僕の手にあるグラスは長細い。半分ほど注がれたお酒は、透き通った薄い緑に見えた。グラスの向こうの木々が反射してるのかも。


 グラスを傾けて挨拶を交わし、そっと口をつけた。するりと流れ込んだお酒は、過去に僕が飲んだお酒と違う。もっとさっぱりしていて、甘くなかった。でもレモンっぽい味で飲みやすい。喉を通過したお酒が、お腹の中でじわっと沁みる感じがした。


「初めてだったな」


「うん。最初はパパと飲むからって話すと、皆、無理に勧めなかったから」


 ミカエルやガブリエルがお酒を持ってきたこともあるし、マルバスにグラスを渡されたこともある。でも、どうしてもパパと飲みたかった。


「そうか。俺もカリスが初めて酒を飲む場に立ち会えて、幸せだ」


 っ、胸が詰まる。お酒のせい? それともパパの言葉かな。目が潤んだ。僕が欲しい言葉を、いつもパパは口にする。僕を一番に置いて、大切にしてくれた。きっとこれから、どれだけ長い時間が経っても……僕の一番はパパのままだ。


「大好きだよ、パパ」


「俺もカリスを愛してるぞ。こんなに素晴らしい息子は、お前だけだ」


 グラスを傾けて、残りを流し込む。瓶に残ったお酒をまたグラスに注ぎ、しっかり飲み干した。


 翌朝、軽い頭痛に顔を顰める僕に「治療だ」とパパが頬にキスをくれた。それが嬉しくて、今晩もお酒を飲もうと頭の片隅で考える。アガレスとアモンの家に行くために準備をしていたパパが「ん?」と振り返ったけど、僕は笑顔で誤魔化した。


 贈り物を届けに行こう、パパ。僕はずっとバエルの息子で、パパの隣にいる。マルバスやセーレとすれ違い、魔族の皆に手を振って。


 見上げた空は明るい日差しが降り注ぎ、手を差し伸べて繋ぐ。パパが僕を見つけてくれたあの日から、ずっと――離さないでくれてありがとう。これからもよろしくね。









*********************

カクヨムのサポーター特典です。1ヵ月以上経過したので掲載します。

『現在連載中』

 魔王様、今度も過保護すぎです!

 世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか

 要らない悪役令嬢、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢方を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~

 古代竜の生贄姫 ~虐待から溺愛に逆転した世界で幸せを知りました~

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