【サポーター特典SS】※2022/3/16公開
今日はパパに内緒でお菓子を作る。大好きな人にお菓子をあげて「大好きだよ」と伝える日なの。パパが好きなふわふわのケーキにしようとしたら、少しお酒が入った大人の味がいいとアガレスが教えてくれた。僕が子どもだから、きっと僕の前で我慢してる。
お酒は大人の味だから、セーレに頼んだ。僕には味見が出来ないもん。一緒に粉や卵をかき混ぜて、四角い型で焼いた。出来上がったところに、柔らかい毛のブラシでお酒を塗るんだ。
「カリス様、舐めたり味見してはいけませんよ」
「わかった」
子どもの体にお酒は毒なの。そう教わったから、舐めたりしないよ。ペタペタとお酒を塗っていたら、もっといっぱい塗っていいと言われた。中へ入っていくから、いっぱい塗るんだって。でも浸けたらダメみたい。
加減が難しいけど、ゆっくり何度も塗る。裏返したり、転がして塗っていると手がべたべたした。鼻に近づけると甘い匂いがする。ぺろりと舐めたら、苦くて甘かった。これ、美味しいね。
美味しいのは毒じゃないから、きっとお酒じゃない。ケーキの甘さかも。ぺろりと舐めていたら、飾りのクリームを泡立てたセーレが悲鳴を上げた。びっくりしてブラシが落ちちゃう。
「あ、落ちちゃった」
「ハケなんて後でいいです。どのくらい舐めたんです? ああ、顔が赤くなってるじゃないの」
僕、怒られてるの? ふわふわしておかしくて、くすくす笑いながらセーレに抱き着いた。
「完全な酔っ払いね」
酔ってないよ、お酒じゃないもん。ぷくっと頬を膨らませた僕は、お菓子の入った箱と一緒にセーレに運ばれた。僕が箱を抱っこして、セーレが僕を連れていく。揺れるだけでも楽しくて、笑っちゃうの。
「これは……酒の匂い?」
パパのお膝に移されても、まだ楽しい。ころんと寝転がって、パパのお腹に顔を埋めた。背中まで手が届かないのもおかしいし、楽しい。用意したお菓子の説明をするセーレの声が遠くて、僕はいつの間にかパパのお腹に顔を押し当てて寝てた。
「起きたか? 頭は痛くないか」
心配するパパに「平気」と答える。起き上がっても、ふわふわしない。見ると、作ったお菓子をパパが食べてるところだった。これは僕は食べられないの。
「カリスにはこちらをやろう」
甘いチョコレートを貰った。甘くて美味しくて、落ちそうな頬を両手で包む。
「カリスが作ったと聞いた。ありがとう、とてもうまいぞ」
「本当? 良かった」
さっきの甘くて苦い匂いがする。それをぱくりと口に入れたパパは、言葉以上に嬉しそうだった。僕……パパの幸せそうな顔を見れて幸せ。
次の日、あの甘くて苦い味はお酒だと教えてもらう。危険だから子どもは二度と口に入れないように、と。あれが大人の味? 少し苦いところもあったけど、甘いよ? 大人になったら、パパと一緒に確かめる約束をした。それまでお酒は近づかないよ。大丈夫、約束したもん。
大人になったら一緒にお酒を確かめようね、パパ。
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【新作】世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか
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愛の意味も知らない僕だけど、どうか殺さないで――。
「お前など産まれなければよかった」
「どうして生きていられるんだ? 化け物め」
「死ね、死んで詫びろ」
投げかけられるのは、残酷な言葉。突きつけられるのは、暴力と嫌悪。孤独な幼子は密かに願った。必死に生きたけど……もうダメかもしれない。誰でもいい、僕を必要だと言って。その言葉は世界最強と謳われる竜女王に届いた。番である幼子を拾い育て、愛する。その意味も知らぬ子を溺愛した。
やがて判明したのは残酷な現実――世界を滅ぼす災厄である番は死ななければならない。その残酷な現実へ、女王は反旗を翻した。
「私からこの子を奪えると思うなら、かかってくるがいい」
幼子と女王は世界を滅ぼしてしまうのか!
恋愛要素が少しあるファンタジーです(*ノωノ)