外伝4−2.心の底で繋がる白い花の想い
「うわぁ! やだ、やだぁ!!」
持ってきてもらったお菓子やジュースから隠れる。甘いのは好きだけど、今は「やだ」なの。後で食べるから置いといて。カリスの小さな我が侭に、周囲は「ああ、なるほど」と納得して微笑む。
育児経験があったり、弟妹がいる者は理解していた。こういう時期なのだ。反抗期やイヤイヤ期と呼ばれる、幼子特有の現象だった。右も左も嫌だが、止まっているのも嫌。とにかく何でも嫌と答える。見知らぬ子が同じ行為をしたなら放置するが、カリスなら可愛いと感じた。
「食べないのか?」
心の中で食べたいと思っているのを感じ取り、誘導してみる。子育て経験はないが、弟妹の多いマルバスから話を聞いているので余裕があった。
「やだ」
やっぱりそう来たか。食べないことを否定した以上、食べるのだろう?
「嫌なら仕方ない」
カリスが反発しない言い方を探りながら、目の前へお菓子とジュースを並べた。むっとした顔をするが、迫力に欠ける。それがまた愛おしかった。
「……やだけど」
けど、食べる。そう続く言葉をカリスは飲み込んだ。心の中で葛藤しながら、お菓子を頬張る。ぱっと表情が華やいだ。カリスの好みを知るセーレのお菓子だ。気に入らないはずがない。大好きな林檎のジュースを飲み、またお菓子を齧る。今日はカップケーキだった。
色とりどりのチョコや蜂蜜、ナッツでコーティングされた小さなケーキに迷う姿に手助けをひとつ。
「これを半分残して捨てるか」
「やだ」
「カリスは食べないんだろう?」
「ううん」
半分に割ったカップケーキを頬張る。それを数回繰り返すと、ほとんどの種類がカリスの口に入った。全種類を味わいたいカリスだが、それほどの量は食べられない。ならば、少しずつ食べさせればいい。望む方向と違うことを言えば、可愛い声で「やだ」と罠に嵌ってくれるのだから。
「陛下は器用ですね」
「聞こえるからな」
「ああ、契約者の特権でしたっけ」
マルバスが口を挟み、心の声が聞こえるのだと答えた。途端に彼は納得する。悪魔同士で契約することはまずないが、カリスは人間と思い込んで契約している。幼いため、心を閉ざすこともなかった。
カリスの考えはすべて流れ込んでくる。それが心地よい。嘘も偽りもなく、純粋に俺を好きと言い切る心は、今も開かれたままだった。お菓子が美味しい、パパが残したから半分こ。可愛い声が聞こえていれば、怒ることもない。ただひたすらに愛おしかった。
「パパ」
何かを持ってきて、無理矢理手の上に載せる。唇を尖らせて、泣きそうな顔で……心の中は怖がっていた。受け取ったのは、庭に咲いていた花。白くて小さな花だが、カリスは知っていてこの花を選んだのだろうか。
「ありがとう、カリス」
くちゃっと顔を歪めたが、最後まで泣かなかった。手の上の花をコップに刺して水を入れる。初めて一緒に街へ出た日、花畑でカリスが摘んだ白い花と同じ。パパは気づいたかな? と愛らしいことを考える息子を強く抱き締めた。