外伝2−3.今の生活も悪くない
幼い主カリスが神だった猫ニィを連れ帰って半月、最近は散歩にも奴がついてくる。いい加減慣れて、同行に不満も感じなくなった。問題はニィはすぐへばること。歩けないと甘えた声を出し、カリスに抱っこされようとするのだ。
『くそっ、そこは俺の特等席だぞ』
『ふん、可愛い者勝ちだ』
意味不明な理論を振り翳されたが、可愛さなら仔犬姿の俺も負けていない。普段は大きなニ頭の犬で過ごすが、散歩の時は仔犬になるべきか。真剣に悩む俺の頭上で、バエルが溜め息を吐いた。
「神とケルベロス、真剣に考える内容がそれか」
『何が悪い』
『いいじゃん』
ニィと被った声に、カリスが首を傾げた。この子は悪魔になったというのに、未だ人間だった頃の意識が抜けていない。そのため犬や猫と会話が出来ると知らないのだ。知らない能力は、素質があっても使えないのが道理だ。教える気のないバエルを睨みながら、カリスの足に頬擦りした。
「ベロは大きくなっても可愛いね」
同意を求められ、バエルは困ったような笑みを浮かべ曖昧に返事をする。にこにこと機嫌がいいカリスは、手を伸ばした。怖がる気配もなく、信じきった眼差し。以前なら、その信頼を裏切って噛み付くことに喜びを覚えたが、今は違う。カリスに信じてもらえることが誇らしかった。
ふふんと自慢げに振り返ると、ニィは不満そうに顔を歪める。本性が出ておるぞ。鼻であしらい、カリスの小さな手に身を委ねた。優しく撫でて擽り、最後にもう一度丁寧に頭の上を撫でる。乱れた毛並みを直す指先が、耳に触れた。
本来なら不快なはずの、耳への接触が心地よい。カリスが触れるなら、どこでも構わない。禁断の尻尾や腹も許そう。
「ベロ、ニィを運んでくれる?」
頼まれたら主に従うのが、飼い犬の務めだ。いろいろ不満はある。自分で歩けよ、神なんだからと思わなくもない。だが右の頭でまず咥え、左の頭で手伝う。両方を撫でてくれたカリスの笑顔を見ながら、両方の口でしっかり捕まえた。これなら落とさず運べるだろう。
大きい姿で散歩するようになってから、首輪は付くが紐は外された。というのも、魔族も天使も話が通じるのだ。人間の感覚を捨てれば、カリスとも話が出来る。いつか来るその日を楽しみにしながら、ペットとして愛されるのも悪くない。
『咥え方が気に入らん』
頭と尻を噛んだ我らの頭に、いま文句を言うとはいい度胸だ。脅しを込めてぐっと力を加えた。びくりと揺れた後、じたばた暴れ始めニィ。
「ニィ、運んでもらってるんだから大人しくしてて」
カリスに叱られ、がーんと顔に書いたニィが大人しくなる。というか完全に脱力した。ざまぁみろと思うより、同情が先に立った。
『それほど落ち込むな、強く噛まぬから大人しくしていろ』
『お、おまえの優しさなんて信じないんだからな』
憎まれ口を叩くニィに笑いながら、俺は大きく尻尾を振った。ああ、そうだ。悪くない。俺は今の生活にとても満足していた。
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