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18.髪を整えてもらったの

 昨日はアモンのお姉さんが来た。今日は大きな猫のお兄さんだ。お顔が猫で髭がピンとしてる。首の周りがふわふわだった。あと、大きな手がアガレスより柔らかそうで、尻尾もある。


「陛下、お呼びと伺い参上いたしました」


「我が契約者カリスだ。整えてもらいたい」


 後ろで丸い飾りのついた尻尾が揺れた。あれって猫? 違うのかな。ちゃんとバエルに聞いてから、声を掛けなくちゃ。アガレスみたいに間違えたら困る。


「あれは獅子だ。大型の猫でも、まあ間違いはないな」


「かなり違いますが、僕の本来の姿を?」


「ああ、魔眼もちだ」


 教えてくれたバエルに頷く間に、上で話が進んでいた。


「かしこまりました。失礼いたしますね、カリス様」


 さっと前に膝を突いて目を合わせてくれる。青い綺麗な目だね。きらきらしてる。


「僕、カリスです」


 よく挨拶が出来たと褒めてくれるバエルに続いて、アガレスも褒めてくれた。嬉しい。ちゃんと挨拶できた。


「ご挨拶ありがとうございます。序列5位のマルバスと申します」


 序列? 聞いたことない。きょとんとした僕にバエルが説明してくれた。バエルは僕が言わなくても気づいてくれる。心が繋がってるの。僕が息子になったからだよね。


「序列とは悪魔の地位の高さだ。アガレスは2位、その上が俺だ」


「うんと、1番目からバエル、アガレス、マルバス?」


「ちゃんと理解できたな、偉いぞ」


 擽ったい気持ちになる。あれ? 昨日のアモンは?


「アモンは7位だ。お昼を食べたら、服を持ってきてくれるぞ」


 来てくれるの? 僕の知ってる人は少ないから、会えるのは嬉しい。その前にご飯を食べるんだね。バエルと一緒に来てから、僕はいっぱい食べてる。ご飯がうまいのは大事だけど、バエルと食べるのはもっと大事。


「髪や体調を整えさせていただきますね」


 髪を切るって、昨日もバエルが言ってた。僕の髪は切ったことなくて、ボサボサだから。切って綺麗にすると、艶が出るんだって。艶はバエルの黒髪みたいなの。触ると気持ちいい。


「うん、お願いします」


 ぺこりと頭を下げたら、マルバスはびっくりしてた。でも笑って手を差し伸べてくれる。バエルと離れるのが気になって振り返ったら、脇のところに手を入れてぐるんと向きを変えられた。この向きだとバエルがよく見える。


「これならば怖くあるまい?」


「怖くないよ」


 頭を動かさないように言われてじっとする。動かないのは慣れてるから平気。石みたいに固まってるの。パチンと後ろで音がしたけど、目の前にはバエルがいる。怖いことはなかった。時々髪を引っ張るような感じがするけど、痛くない。あと、軽くなったかも。


「ほら、可愛くなったぞ」


 可愛い? 女の子じゃなくても可愛くていいのかな。ドキドキしながら、バエルが出した丸いガラスを覗いた。これは鏡で、僕の姿が映る道具だよ。バエルのツノと同じ銀色が短くなって、耳の下でくるんと丸くなってる。


「失礼しますね」


 銀色の何かが視界に入った。ぱちんと音がして、銀色の髪が落ちる。顔の近くなのに痛くない。引っ張ると痛いのに、どうして切っても痛くないんだろう。落ちた髪の毛を摘んで眺めていると、バエルが笑った。


「引っ張ったら痛いのは、頭の方だ。繋がっているであろう? 髪は痛みを感じないからな」


 一部を除いて。そんな呟きも聞こえたけど、僕はバエルの言葉に頷いた。そっか、髪の毛がくっついてる頭の場所が痛いんだね。僕、たくさん覚えるから、もっと撫でて欲しい。願ったことは、すぐに叶えてもらえた。

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