185.ミカエル達はここに住むの?
「天使と悪魔は、憎み合う理由がなくなったんだよ」
ミカエルは肩を竦める。木の下に腰掛けたパパのお膝で、僕はお茶のカップを傾けた。このお茶、甘くて美味しい。
「憎んでたの?」
「僕らは違うけど、大半の天使と悪魔は互いを嫌ってたね」
ウリエルは溜め息を吐いた。セーレが用意してくれたお菓子を口に入れて、ゆっくり噛む。パパは何も言わないけど、僕の頭をずっと撫でていた。
天使と悪魔は仲が悪くて、だけどパパとミカエル達は平気だよね。パパと僕は悪魔、ミカエルとウリエルは天使。でも仲良く出来たなら、他の悪魔と天使も仲良くなれると思う。
「カリスは偉いな。同じように考える者ばかりなら、神に踊らされることもなかっただろう」
踊ったら仲良くなれるよ、楽しいもの。そんな僕の感想に3人は笑った。僕も一緒ににこにこしたら、ベロが来て僕の手を舐める。眠ったニィをずっと咥えて運んでるから、犬と猫も仲良しだね。
「世界が神の空座に慣れるまで、数百年は混乱するかも」
「そのくらい大した長さじゃないけどね」
ウリエルとミカエルの話を聞きながら、僕はまたお茶を飲む。パパも同じお茶を飲んで「甘いな」と呟いた。蜂蜜が入ってるんだよ。セーレが言ってた。冷たいお茶は甘い方が美味しいから、って。
「ああ、そうそう。天界の居心地悪いんで、しばらくゲーティアで世話になるから」
「は? 断る」
ミカエルがここに住むの? 首を傾げる僕を抱き寄せながら、パパが嫌だと言った。パパが嫌なら、僕は賛成できないけど。別にお城に住むわけじゃないと思う。新しくお家を建てるのかも。
「この湖とかいいじゃん。ここに家を建てようか」
僕の考えを読んだミカエルが、湖の周囲の広い土地を指差した。ウリエルもここでいいみたい。少し考えた後、パパが条件をつけた。
「お前ら以外に増えるなら報告しろ。勝手に城に入るな。来るなら事前に連絡が必要だ。守れないなら追い出す」
「「わかった」」
二人ともそれでいいと笑う。ミカエルとウリエルが住むなら、時々パパと一緒に遊びに来られるね。ベロもニィも来られる距離だから、お散歩で会えるかも。わくわくする僕の頭上で、さらに人数が追加された。
「あ、ガブリエルとラファエルも来るぞ。あの時、主天使や能天使と戦ったのが響いて……悪いけど、頼む」
「四大天使なしで纏まるのか?」
パパが渋い顔で呟いた。ミカエルは逆に楽しそうで、ウリエルも白い羽をぱたぱたさせて機嫌が良さそう。
「纏まるか、と聞かれたら無理だろ。だが神の魂がここにいるのに、ゲーティアに攻撃は出来ない。数十年したら諦めて、新しいことを始めるさ」
それまで放っておけばいい。そう締めくくったミカエルは、ごろんと寝転がった。白い羽が邪魔だと言って、消してしまう。出したりしまったり出来るの、便利だな。僕もツノや羽が生えたら、消せるように練習しよう。
決意した僕に、パパは教えると約束してくれた。いつか僕にも黒い羽と銀のツノが生えますように。