184.僕の名前を天使が呼んでくれた!
大きいお魚は、ミカエルが長い剣で切った。捌くって言うんだよ。頭を落として、縦に切ったら骨を抜くの。食べないところは埋めるんだ。埋める穴を掘るのは、僕もお手伝いした。
パパに貸してもらったスコップで、しゃがんで穴を掘ったの。その横にウリエルが大きい穴を作って、パパと一緒に間を僕が繋いだ。そこへ内臓や頭を入れる。上から土を掛けて「ありがとう」って伝えた。
パパが切り倒した木を乾燥させて、三角に組んだ。僕は小さい枝を拾う係だよ。火をつけるときに使うから、大事な役目なの。大きい木を組んだ隙間に、僕が見つけた枯れた草や細い枝を差し込む。ウリエルが「えいっ」と火をつけた。
「一応、これはありがたい火なんだけどね」
ありがたい火とありがたくない火があるなら、天使は大変だと思う。そんな僕にミカエルが大爆笑して、転げ回った。お腹痛いのかな? でも楽しそう。
ミカエルが捌いたお魚をパパが串に刺して、並べ始めた。火をつけてすぐに焼くと、真っ黒になっちゃうんだって。少し火が小さくなってから、遠い位置に置くの。僕は覚えて、いつかパパに焼いてあげるんだ。
「僕らにも焼いてよ、カリス君」
「カリス君が焼くなら食べたい」
「名前……」
僕の名前を呼んでくれた! 天使は事情があるから僕の名前を呼ばないと聞いたのに、もういいの? これからも呼んでくれる?
「神に見つかる心配はもうないからね。というか、神が猫に封じられるなんて。僕としたら間抜けな神話みたいでウケる」
ミカエルが猫のニィを撫でようとしたけど、ひょいっと首輪を咥えたベロがお尻を見せた。ニィが反対向きになって、触れなくなったの。それを見て、またミカエルが笑ってる。
「焼けたぞ」
パパの言葉に、皆で焚き火の前に移動した。熱いけど、どうやって串を取るのかな。心配した僕をよそに、ミカエルもパパもウリエルも手で掴んだ。金属の串は熱くないの? 僕もと手を伸ばしたら、慌てて止められる。
「熱い、火傷するぞ」
「びっくりした」
「カリス、素手はダメだ」
ミカエルもウリエルも、最後にパパまで。僕を止めるけど。
「だって皆は手で掴んだよ」
言われて、全員が己の手を確認する。素手で掴んだのに、どうして僕だけダメなのかな。子どもだから?
「そうだな、子どもは危ないんだ」
「ミカエル、適当な言い方をするな」
パパはミカエルを叱った後、丁寧に結界の話をしてくれた。手に結界があるから熱いのも、冷たいのも全部平気だった。僕は結界がないから、触ったら熱いんだって。
「じゃあ、結界を教えて」
「もう少し大人になったらだ」
うーん、やっぱり大人じゃないからダメだった。お魚はパパの分を分けてもらう。お膝に座って、一緒に齧った。熱くて美味しくて、少し硬い。顎が疲れちゃった。
「残りは持ち帰って分けるとするか」
「僕が持って行く!」
アガレス、マルバス、アモン、セーレ、プルソン先生……指を折って数えていたら、僕の食べかけをベロが齧ってた。ちゃんとニィに分けてるの、偉いよね。二匹ともたくさん撫でたよ。