181.あーんしたら皆同じだよ
絵本で見たピクニックがしたい。そう告げたら、アガレス達が青ざめた。何でだろう? 首を傾げる僕じゃなくて、パパに向かって「危険だ」と色々並べる。大人のお話かな。
まだ天使が全員味方になったわけじゃなくて、悪魔の中にも納得してない者がいる。だから魔王城の外は危険だ、マルバスが声を張り上げた。その隣で、アガレスも危ないと繰り返す。
パパは渋い顔をして考え込んでいた。だから僕はパパの服を摘んで引っ張る。
「どうした、カリス」
「ごめんね、僕我慢できるよ。お出かけしなくてもいい」
「ぐっ……」
「何という罪悪感」
アガレスとマルバスが、同時に苦しそうになった。心配する僕をよそに、パパは問題ないと言う。しばらくしたら治るんだって。瓶に入った飴を取り出して口に入れ、アガレスとマルバスにも渡す。もちろんパパは「あーん」で口に入れた。
「羨ましい」
ぼそっと呟くマルバスをアガレスが睨んだ。羨ましい? パパの飴と同じ色が良かったのかな。
「同じ色……」
がらがらと瓶を揺すって、パパが食べた赤い飴を探す。見つけた! マルバスだけあげると、アガレスが羨ましくなるから、二つ見つけなくちゃ。
僕が夢中になって飴を取り出している間に、パパとアガレス達はお話をしてた。僕はいい子だから、大人のお話は聞かない。飴を見つけて二つ手に握り、アガレスの前に立った。しゃがんで視線を合わせる彼の口に、飴を押し付ける。
「パパと同じ飴! 羨ましくないよ」
「そちらではないのですが、ありがとうございます」
そちらじゃないの? 何の話か分からないけど、飴を口に入れたら嬉しそう。マルバスにも同じように口に入れた。
「あーん」
この合図をすると、皆口を開けてくれるんだ。僕も同じで、パパにあーんをしてもらうの、大好き。皆もあーんして欲しいけど、大人だから言いにくいのかも。
お揃いの飴を舐めるパパが笑いながら、僕を抱き上げた。首に手を回す。これで落ちないの。ツノは危ないから触らないようにしないと。
「そういえば、外見についてカリス様は一切口にされませんね」
アガレスが変なことを言い出した。外見? 見た目のことだよね。いつもと同じなのに、もしかしたら違うの? じっくり眺めたけど、アガレスはいつもと同じ。黒い髪が背中まであって、金色の目の狼さんだよ。
「カリスは心眼の持ち主だ。ずっと我らの本来の姿を見ている」
「なるほど、それなら納得できます」
「本来の姿って、なぁに? 今は前と違うの?」
何でもないとパパが頭を撫でてくれたので、僕はそれ以上尋ねなかった。それより気になることがある。
――お外にお出かけは、いつから出来るのかな?
ベロはお部屋にいるけど、一緒にお城の外までお散歩に行きたい。それにお魚さんに餌もあげたいし、猫ちゃんと遊びたいのに。