179.明日は寝坊をして、寝転がって過ごそう
温かい何かに包まれてる。すごく気持ちがよくて、このまま眠っていたかった。なのに誰かが僕を呼ぶんだよ。カリスじゃなくて、違う響きで。
なんて呼んでいるのか、聞き取れないの。でも僕を呼んでいるって分かる。だから返事をした。誰? 僕に何の用?
僕と同じ銀髪で青い瞳の人が現れた。顔は分からない。顔に髪がかかってるわけでも、暗いわけでもないのに。顔が見えなかった。多分視えてるけど、見てはいけないんだね。そっと目を逸らす。そうしたら大きな手が僕を撫でてくれた。
優しくて温かくて、パパみたいだ。にっこり笑った僕に、その人はお話を始めた。
この世界は神の箱庭、だから僕を生み出した。バエル様や皆を助けてあげて、と。難しいことは無理だけど、僕が出来ることは全部する。だから……泣かないで? 言われて顔を拭った人が、笑った。口も目も鼻も見えないけど、でも笑ったと思う。
「カリス、目が覚めたのか?」
パパの声だ! 振り返った瞬間、人影は消えた。温かい雰囲気はそのままで、少し寂しい。パパが呼んでるから、またね。誰もいなくなった後ろへ手を振って、僕は駆け出した。
びくっと揺れて、目を開いたらパパがいる。ベッドに横たわって、僕を抱き締めていた。強くないけど、近くにいる。僕から手を伸ばしてパパに抱き付く。
「パパ」
「うん、どうした? カリス」
「いなくならない?」
「ずっと一緒だ、誰にも邪魔させない」
約束だと笑うパパに安心した。さっきの人影みたいに、パパが消えたら悲しいから。
「近々、ミカエル達が遊びに来るそうだ」
頷く。
「アガレスが明日の仕事はないから、休んでいいと言ってたぞ。一緒に出かけようか」
首を横に振る。
「僕はパパとこうしてたい」
くっついたまま、ごろごろと過ごしたいの。遊びに行くのも楽しいけど、明日はパパの顔だけ見たい。カードで遊ぶのも、街に出ていろんな物を見るのも今度にしよう?
「何か怖いか」
「パパが、あの人みたいに消えたらヤダ」
寝ている間に会ったの。僕と同じ色で、顔の見えない人。優しくて温かいのに消えた。僕を残していなくなったんだよ。
グスッと鼻を啜る。悲しくなって涙が出て、それをパパが拭いてくれる。優しく拭く指先が触れると、また涙が出た。繰り返す僕を、パパはぎゅっと引き寄せる。シーツの冷たい部分に肌が触れて、すぐに僕とパパの温度になった。体温と一緒、温かい。
「カリス。前にも言ったが、俺とカリスは魂が繋がった。だから二度と離れたりしないし、生きるのも一緒なら死ぬのも一緒だ。死んでからも離してやらん。安心しろ」
目が覚めたらパパの顔が見たいって、僕はそう言った。それをパパは叶えた。絶対に嘘を言わないし、僕を嫌ったりしないのがパパ。だから死ぬ時も一緒でそれまで一緒に生きて、いつか死んでも一緒にいる。その約束が本当に嬉しい。もう僕は一人じゃないから、大丈夫。
「明日は寝坊しよう、ゆっくり食事をして、また寝転がる。どうだ? カリスの望み通りだ」
「パパの望みはいいの?」
「俺の望みはカリスが、楽しい、嬉しいと笑うことだ。もう叶っている」
嬉しくてにっこりと笑う。僕は強くて優しいパパの息子で、幸せだよ。全身で伝えたくて、ぴたりとパパにくっついた。もう一度眠るけど、もうあの人がいなくても悲しくない。少しだけ寂しいけど……パパがいるから。