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17.報復は悟られぬように

 ただ愛されたいと願うなら分かる。だが、カリスは違う。一緒にいてくれと望んだ。愛されるはずがないと、最初から諦めていた。手を伸ばしても届かない果実を欲しがるのが子どもなのに、手を伸ばす行為すら知らない。


 眠らせてからアガレスに命じた。こういう汚い話は、この子の耳に入れる必要はない。


「ダンタリオンを呼べ。カリスの過去をすべて調べさせ、報告させろ。生まれてからすべて、漏らさずだ」


「かしこまりました。アンドロマリウスを補佐につけます」


 任せる。目でそう示して頷く。ダンタリオンは真理を見抜く目を持つ。アンドロマリウスは隠し物を暴くことに長けていた。あの二人なら間違いはない。待てる時間は長くないが、報復は必要であろう?


 我が契約者にして息子となったカリスを苦しめ続け、今もまだその心を傷つける者を生かす理由はない。悪魔とは、元来身勝手で己の欲望に忠実な種族だった。皇帝の地位に就く俺が望むなら、それは悪魔全体を動かすに足る動機なのだ。


「簡単に処分する気はない。手出しをさせるな」


「わかっております。私も優秀な部下を失う気はありませんから」


 諜報活動に優れた部下は貴重なのだと肩を竦める。表面上は丁寧に応じているが、アガレス自身も思うところがある様子だった。


「この子には知られぬよう」


「ええ、もちろんですとも。こんなに純粋な魂に、阿鼻叫喚の地獄を披露する気はありませんよ」


 アガレスなりに、カリスを愛でているらしい。多少面白くない気もするが、嫌われるよりマシだろう。目を覆う手に逆らうことなく、寝息を漏らすカリスが愛おしい。この呪われた姿になってから、初めて愛せる存在を得た。


「それにしても、この子が強力な魔眼を持っていたとは、驚きました」


「魔眼ではない。心眼の方だ」


 希少な能力である魔眼は、魔力など目に見えない力を捉える。だがカリスは違っていた。それらも見えているのだろうが、俺の過去の姿を直接見透(みとお)している。心眼と呼ばれる、真を見抜く力だった。魔眼より数が少ない、ほぼ現存しない能力だ。


 この子が境遇ゆえに身につけたのか。生まれ持った能力か。どちらにしても、狙われるのは間違いなかった。この瞳を奪って取り込めば、心眼を得ることが出来るのだから。


「魔眼という情報で隠します。今の状態ならば、バレることもないでしょう」


 互いにカリスという固有名詞を避けて話した。名前は本質を示すため、心眼と魔力を持つカリスに強く影響する。万が一にも呼んだ響きで、カリスの心に傷を残してはいけない。この子は阻まれた成長を取り戻す途中だった。傷をつければ取り返しがつかない。傷で歪んだとしても手放せないほど、俺はカリスを大切に思ってる。だからこそ、歪めたくなかった。


「失礼いたします」


 気を利かせたアガレスが退室し、俺はカリスの隣に横になった。腹も足も胸も、この子はぴたりと張り付いて来る。人肌の温もりに飢えているのだ。本人が無自覚であることが不思議なほど、何もかも足りていない。この器を愛情で満たしたら、さぞ美しく映えるだろうな。くつりと喉を鳴らして笑い、体温の低い子どもを温めるように抱き締めた。

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