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176.この子が俺の答えだ

 誰かが僕を呼んだ。でもパパじゃないから聞こえないよ。僕はパパと一緒に生きる約束をしたの。大好きなパパと離れたくないんだ。


 ――カリス、光の子。可愛いアザゼルの息子よ、応えておくれ。


 泣きそうな声は優しくて、でも僕は両手で耳を塞いで首を横に振った。落ちそうになった僕を、パパが支える。お礼を言ったけど、自分の声も聞こえなかった。


 ――おいで。カリス、俺だ。


 パパの声と同じだけど、パパじゃない。これは違う。だって、僕のパパはこんな風に僕を呼ばない。名前を呼ぶ声に、僕を助けて愛してくれるパパの温かさはなかった。違う、これは違う人だ。


 最初は小さかった声が大きくなる。うるさい、うるさい! 僕はパパと生きて行くの! お前なんか知らない!! 心の中で叫んだ僕を、ぎゅっとパパの腕が強く抱き締めた。


「カリス、よく耐えた。偉いぞ、さすが俺の自慢の息子だ! もう手を離していい」


 本物のパパの声だ。嬉しくなって手を離した。その手をパパの首に回して抱き付く。強く抱くパパの力が嬉しくて、幸せで、頬にちゅっとキスした。


「パパ、大好き」


「俺もだ、カリス」


 名を呼ぶ声がパパだ。これはあの偽物の声じゃない。にこにこ笑う僕の頭を優しく撫でたパパが、空に向かって叫んだ。


「どうだ? この子が俺の答えだ」


 ――神の座に届いた愚か者よ、我が意に叛いたそなたの罪を赦そう。


 降ってきた声は、どこか悲しそうだった。お腹が痛いの? それとも誰かとケンカしたのかな。心配になるけど、僕の一番はパパだから。勝手に応えたりしないよ。だってそれが約束だもん。


「罪? 俺はお前の駒ではない。赦される必要はない」


 強い口調で言い切ったパパが怖い顔をする。でも僕と目が合うと、少し笑ってくれた。大丈夫、僕はパパを怖いと思わないし、いつも綺麗で優しいパパが大好き。もし綺麗じゃなくなっても、パパは僕の大切な人だよ。


 ――その者の姿は醜い獣だ、それでも選ぶというのか? この世界の鍵である予言の子よ。


 ぷいっと顔を背けた。パパの胸に顔を埋める。僕は知らない。パパはいつも綺麗だし、僕の目にそう見えた。きらきらして、優しい顔で、黒い翼も大好き。アガレスやセーレは獣の姿だけど優しいし、僕を虐めない。だから僕はパパが獣になっても、好きって言えるよ。


 すりすりと頬を寄せたら、パパが額にキスをくれた。それから左腕に僕を移す。不安定になったから、パパの首にしっかり腕を回した。


「少しだけ我慢してくれ。すぐ終わる」


 うん、いいよ。パパが僕を落としたりしないって、知ってる。何も怖くない。パパは右手のひらを牙で傷つけた。赤い血と一緒に何かが出てくる。まだ外に出てないけど、パパの中を通ってくる物に気付いた。パパの背中に回した手に、翼が触れる。青い艶があって、黒くて綺麗な羽の横に出て来た、白い小さな羽が生えてくる! 大きく育って、ぶわっと広がった。


「すごい綺麗」


 パパは黒が似合うけど、白も似合うんだね。羽を見てる間に、パパは右手に剣を持っていた。首を傾げた僕ににやりと笑い、パパはその剣を振った。

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