172.戦う応援の服はパパの色
アモンとパパの話す声が聞こえて、僕は目を覚ました。いつも起きる時間より早いね。ベッドの上にパパはいなくて、ベロがぶるぶると体を振った。
「ベロ、パパは?」
「ここだ」
戻ってきたパパに抱き締めてもらう。僕、置いて行かれたかと思った。心配だったんだ。でもパパは僕に嘘をつかない。だから平気。
「俺がカリスを置いていくことはない」
「うん。アモンの声がしたよ」
「服を持ってきた。今日はカリスにこれを着て欲しいそうだ。気合が入ると言っていたぞ」
パパの手が服を広げる。黒い服で、銀の飾りが付いてる! パパの色だった。形はアモンの騎士服みたい。寝る時のワンピースを脱いで、着替えさせてもらった。
鏡の前でくるんと回る。カッコいい! 僕も応援で戦う、その服だよね。
「そうだ。カリスが応援しないと勝てないぞ」
「僕、頑張って応援する! これカッコいい?」
「似合ってる。さすが、俺の自慢の息子だ」
パパが僕を自慢できるように、一生懸命応援するよ。黒い服は、よく見たら銀の飾りだけじゃなかった。小さな黒い石が付いてる。ボタンだったり、襟の飾りもそう。すごく気に入った。あと黒い刺繍もしてあるの。
全部着たら、最後にベルトを締めてもらう。腰へ剣を付けてもらった。初めての武器だ。きらきらする青い宝石が埋められた、銀色の剣だよ。アモン達より短いけど、僕にぴったり。
「カリス、これを抜けば駆け付ける」
もし逸れたら、この剣を抜け。そう付け加えるパパに頷いた。ベロもいるし、僕は誰かを傷つける戦いはしないの。でも自分が危ないときは抜いたら、パパが助けに来る。仕掛けがあるんだね。ちゃんと覚えたよ。
ノックの音がして、パパが扉を開けた。
「朝ご飯は移動しながら食べよう。ほら、見送りに来てくれたぞ」
「セーレだ!」
彼女は大きな体を揺すって入ってくると、ご飯の袋をくれた。具が挟まったパンみたい。あと飲み物も。それをパパが収納するお部屋に入れた。移動しながら食べるのは、お出かけの時と同じだ。
「カリス様、絶対に陛下から離れてはいけませんよ。天使が味方するようですが、油断しては危ないんですから」
「うん。ありがとう、セーレ」
半分くらい話が分からないけど、僕を心配してるのかな。僕はパパに抱っこされてるし、ベロもいるよ。ベロは移動しながらご飯できないから、先に食べるんだって。お肉の塊をすごい勢いで齧ってる。骨を噛み砕く音もするから、お腹いっぱいになったら出発だね。
気をつけてと何度も言いながら、セーレが帰った。すぐにアガレスがお部屋に訪ねてくる。一緒に行くの。アモンは騎士や兵士の人と移動なんだ。マルバスとプルソンが僕に袋をくれた。マルバスはお菓子、プルソンは飴だ。どっちも大切に食べるね。
「お守りは持ったか?」
「うん、ここだよ」
お洋服の隙間から紐を引っ張る。マルバスが作った球と、パパからもらった飾り、他にもある。全部持って行けるように、お出かけ用ポーチに入れた。それを首から掛ける。
「よし、決戦に行くか」
お散歩に行く時と同じ。僕はベロを呼んで、パパと手を繋ぐ。反対の手をアガレスが掴んだ。両手を繋ぐの久しぶりだ。どきどきしながら、二人を見上げた。