169.神はどうして戦いを作ったのか
ダンダリオンは難しい言葉で報告? をして、マルバスがいくつか質問をする。アガレスは答えたり尋ねたり。アモンはずっと反対ばかりだった。バラバラなのにどうするのかと思ったら、パパが最後に結論を出す。
「カリスが望んだことだ。ミカエル達と最終決戦をして、すべての戦いを終らせる」
「「「はいっ、我らは皇帝陛下に従います」」」
ミカエル達と? 決戦って戦うの?
「パパ、僕はミカエルと戦いたくないよ」
「ああ、ちゃんと説明してやる」
準備のために解散するダンダリオンやマルバスが、慌ただしく出ていく。アモンはぷっと頬を膨らませ、アガレスについて行った。僕とパパだけになった部屋で、膝の上に移動する。やっぱり大人より、子どもの方が楽しいな。だって、パパのお膝に乗れるのが嬉しいし、難しいお話の会議はついていけないから。
「ミカエルやあの3人の天使と共に、神を封じる。それで天使と悪魔の戦いは終わりにできるぞ。二度と戦わなくていい」
神って偉い人? その人がパパとラファエルを戦わせようとしたのなら、悪い人だね。封じるのは出てこなくなること。前にお勉強で習った。読んだ絵本に出てきたよね。
僕、神はいい人だと思ってたの。絵本ではキラキラしてたし、天使の上にいて優しそうだった。でも、パパを傷つけようとするなら嫌い。戦わないために戦うなら……あれ? 結局戦うの?
「パパ、戦うの?」
「そうだ。最後の戦いをする」
「最後ってどうして分かるの? それに最後の一回でもケガしたら痛いよ」
「安心しろ、そのために俺がいる」
今日だけ大人の僕に、パパはいろんな話をしてくれた。戦いで傷付くのは、強さが近い人同士。うんと強い人は平気だし、すごく弱い人は簡単に負けちゃう。だから天使が傷付かないように、ミカエルとラファエル、ガブリエル、ウリエルが止める。同じようにアモンやアガレスが悪魔を守るんだって。
神と向かい合うのは、僕とパパだけ。パパは切り札があって勝てると言った。僕はパパと一緒の約束したから、もちろん手を繋いでついて行くよ。パパが勝つところを見るんだ。そうして神を封じたら、もう戦いはないの。
神は世界を作ったと絵本に書いてあったのに、どうして戦いも作ったんだろう。傷つけ合う必要なんてないのに。僕は幸せになりたいし、周りの大切な人も幸せになって欲しい。神も誰かを戦わせることを考えないで、嬉しくなることをすればいいのにね。そうしたら幸せになれるよ。
パパの大きな手が僕の頭を包んで、左右に撫でた。これだけで僕は幸せになれる。神もそうだといいな。きっと忘れてるんだと思う。神も大切な人がいたら、戦いなんて作らないよね。
「カリスが神なら、戦いは作らないか」
「うん。痛いのと苦しいのは作らない」
「立派な考えだが、もっと子どもでいいんだ。欲しいものを我が侭に叫んで、叶わなくて駄々を捏ねて泣いたらいい。それでも俺はカリスが好きだぞ」
「僕もパパが好き。すごく好き。ずっと一緒だよ」
黒髪も銀の瞳も、その立派なツノも。時々覗く大きな獣みたいな影も好きだから。僕はパパと一緒に生きていくの。だからこの手を離さないでね。