161.戦った結果の白い戦利品
頭が3つもあるけど、全部ベロだよ。僕は分かる。パパの腕を叩いて合図して、降ろしてもらった。近づいた僕へ、ベロが飛びつく。前より大きくて重いから、転んじゃうよ。
「うわっ」
「おっと。危ない」
パパが後ろから僕を支えてくれて、ベロが申し訳なさそうに尻尾を垂らした。頭を撫でていくけど、ケガはないみたい。ほっとして真ん中の首に抱きついたら、両側の首に頬擦りされて顔を舐められちゃった。
ベロの下は真っ白。これは鳥の羽根? いっぱい散らかってる。ベロが捕まえたのかな。
「……これは、派手にやったな」
パパが唸るように低い声を出す。ベロの体が大きくなってて、よく見えない。でもベロの足元は白い羽根がいっぱいで、よく見たら僕くらいの大きな翼もあった。
「ベロ、何したの?」
くーんと鼻を鳴らした後、わんっ! と大きく鳴いた。尻尾がぶんぶん振られてて、ベロは機嫌がいいみたい。パパに両脇を持ち上げられて浮いたら、下の状態がよく見えた。
アルバスがびっくりしてたの、これが原因かな。羽根が屋根にいっぱいで、屋根の下にも落ちてる。真っ白なんだけど、よく見たら赤いのもあった。
「ベロは戦ったんだ。こういうこともある」
パパが慰めるような声で溜め息を吐く。アガレスが僕に説明してくれた。ベロは攻めてきた天使と戦って、その翼を食い千切ったんだ。いっぱいある羽根の分だけ、天使が痛い思いをした。ベロは悪魔の犬だから、天使が嫌いなんだって。
「ベロ、痛いことしたら、痛いことされるよ」
誰かに酷いことをしたら、酷いことされちゃうんだ。ベロは傷だらけで捨てられてた。だからって、誰かに酷いことしてもいいわけじゃないの。お座りして、全部の首にそう話す。だんだんと尻尾が垂れて、耳もぺたんと伏せちゃった。でもいけないと分かってくれたみたい。
「カリス、叱ってはいけないぞ。戦う決意を決めた者は傷つくことも覚悟している。ケルベロスが強くても、天使に殺される危険はあったんだ。それなのに戦った。カリスのためだぞ」
「僕、の?」
僕のため? 殺されるかも知れないのに吠えて噛んで戦ったの? 尋ねる僕の顔を舐めるベロに、涙が出た。僕は何も知らなくて、わからなくて。頑張ってくれたベロを叱った。きっと文句も言いたかったのに、最後までちゃんと聞いてくれたんだね。ぎゅっと抱き締めて、それから足下の羽根を拾うことにした。
ベロが退いたら、足で踏んでいた羽根がいっぱい。翼を片方だけ噛みちぎって離れる戦い方をしたみたい。片方取られると、天使は逃げて行ったと聞いた。アガレスが近くで見守ってたのかな。詳しいね。
アモンはケガはなくて、お気に入りの剣が少し欠けたと悲しそう。アガレスもアモンも、ケガがないのを確かめてほっとする。
「あの人、痛そうだね」
戦った悪魔の中にケガした人もいた。騎士の人はケガが多かったの。あとで僕が薬を持ってって、皆に塗ろう。そうしたら早く治るよね。