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15.アモンはお菓子の甘い匂い

 お姉さんが来た。ノックして部屋に入って、アガレスとバエルに挨拶したの。それから僕をみて、嬉しそうに笑った。僕、この人は平気みたい。


 赤い爪で赤い服、靴も赤い。僕を上から下まで見た後、バエルから僕を受け取った。抱っこされると甘い匂いがする。この人、お菓子みたいだ。甘い匂いで柔らかくて、触り方が優しいの。


「可愛い子ね。これなら用意しやすいわ。服のイメージだけ決めてちょうだい。採寸は今終わったわ。だから睨まないで」


 文句を言いながらお姉さんは僕を下ろす。すぐに手を広げたバエルに飛びついて、抱き上げて貰った。振り返るとアガレスと話をしてる。


「採寸ってなぁに?」


「カリスの体の大きさを測ったんだ。服を作るのに必要だからな。新しい服を作ったら、髪の毛も揃えよう」


「うん……」


 返事はしたけど、痛くないの? 髪の毛って頭にくっついてるし、爪が剥げた時みたいに痛かったら、やだな。引っ張られた時も痛かった。思い出したら怖くなる。するとバエルが小さな銀色のナイフを取り出した。これは怖くない。だって、僕はこれで痛い思いをしたことはないもん。


「よくみていろ」


 バエルは自分の髪を一房引っ張り、僕の前で切った。びっくりし過ぎて声が出ない。


「痛く、ないの?」


「平気だ。次はカリスの毛を少しだけ切ってみようか」


 バエルが痛くないなら、僕も我慢できると思う。ぐっと拳を握っちゃうけど、見つめる先で銀のナイフが僕の髪に触れる。前は汚い灰色だったけど、洗ったら銀色になったの。ナイフほど光ってないけど、バエルのツノの色と同じだよ。すっと動かした手を見ていたら、髪が切れていた。


「もう終わり?」


「そうだ。痛くなかっただろう? 今みたいに毛先だけ切って整えたら、もっと可愛いぞ」


 可愛いって僕に言ってるの? 綺麗の次くらいにいい言葉だよ。僕にそんな言葉を使っていいのかな。他の人が怒らない? 不安になる僕を抱き寄せたバエルが、髪や額にキスをくれた。これも覚えたばかり、唇をそっと触れさせるんだけど、すごく気持ちいい。


「カリスは可愛い。この俺がそう言うんだから、間違いないさ」


 バエルは僕に嘘をつかないと約束した。契約者との関係は、そういうものなんだって。僕はバエルを独り占めしてもいいと言われた。契約は大切で、約束と同じなんだよ。僕はずっとバエルと一緒にいても、誰も怒ったりしないのが嬉しい。


「服は可愛い系ね。数年したら見直すけど、ひとまず日常服と式典用を仕上げるわ」


 話が終わったアモンが近づいた。僕は銀色、バエルは黒、アガレスも黒だけど……アモンは緑の髪だった。目も緑で肌が黒いの。僕やバエルと違って、胸が突き出てる。抱っこされると柔らかかった。


「着ぐるみ風とか可愛いし、寝る時に着せてみたいわ。あと銀髪だからなんでも色が似合うし。すごく楽しみ」


 また来ると約束して、アモンは帰っちゃった。僕のお洋服を作ってくれる。今日のお仕事は終わりになって、バエルと一緒にお部屋に帰った。絵本は大事に抱っこしてきた。お部屋のベッドに座って、本を開く。


 この本は僕が貰ったから、好きに何度でも読んでいいの。読まなくても怒られないし、読んでても誰かに取られない。僕だけの絵本は宝物になった。

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