154.地下牢借りたいんだけど
対天使の作戦を打ち出し、戦闘体制を整えている最中に舞い降りた白い翼の持ち主に頭を抱えた。どう考えても攻撃されるか、よくて捕獲だ。
「あ、バエル。悪いんだけど、ちょっと地下牢貸してよ」
「何に使うのだ、ミカエル。それと今は戦時中だぞ」
アモンは剣を抜き、隣のアガレスも攻撃魔法を練っている。許可が降り次第、瞬殺されそうな状況で、大天使ミカエルはにっこりと笑った。
「わかってる、僕が使うんだよ。問題なければ、ウリエルも隣に入れて?」
「問題だらけだ」
はぁ……大きく溜め息を吐く。その腕の中で、カリスはきょとんとした顔で首を傾げていた。唸るベロは仔犬の偽装が剥がれかけ、やや膨らんでいる。
「パパ、ベロがおっきくなった!」
指摘されて、くーんと鼻を鳴らしたベロが元のサイズに戻る。今更遅いのではないかと思ったが、カリスは気にしない。手を叩いて喜んでいた。
「ミカエル、僕のベロはすごいでしょ」
「色んな意味で、君が凄いのは知ってるよ」
「僕じゃなくて、ベロ」
カリスが抗議する。ベロを褒めて欲しいのだろう。代わりに口を開いた。
「天使は、カリスの凄いが分からないらしい。ベロはこんなに立派なのにな」
褒められた途端、ベロは薄気味悪いと言わんばかりの顔をした。だがカリスは目を輝かせて頷く。幼子特有の大きな頭が落ちてしまうのではないかと心配になる程、勢いよく縦に振った。咄嗟に支えてしまう。
「あのね、ミカエル。お城に意地悪しに来るの?」
「したくないから、捕まろうと思って」
カリスには難しい表現だったようだ。うーんと唸っている。頭の中で色々考えているが、何とも可愛らしい理由づけで微笑ましくなった。世界の一割でもカリスのように純粋な者がいたら、種族ごとに分かれて暮らす理由も、互いを憎み合うこともなかっただろう。
残念なことだが、世界は残酷だ。カリスがここまで輝いているのも、他にいない唯一の存在だからだった。もしもの世界は存在しない。
傲慢さを理由に神が人間を罰しようとしたあの日、反旗を翻したことに悔いはない。巻き込んでしまった者も、後悔はないと言い切った。ならば、悪魔として醜い姿を晒そうと構わない。理解する者は、この腕の中にいるのだ。
「地下牢を貸してやる。さっさと入ってろ」
「え? ホント!? あ、拷問されたことにして情報流せるからさ。後で誰か寄越してくれる? 出来たらアガレス以外で」
「アガレス、任せる」
「畏まりました」
満面の笑みを向ける黒い獣アガレスに、ミカエルは引き攣った顔で笑う。お手柔らかにと願い出て、ウリエルを呼び出した。彼らの思惑はともかく、四大天使の半分を確保できれば、戦力比は大きく傾く。犠牲者を出さずに戦を終えられそうだ。
彼らが内側から牢を破壊せぬよう、厳重に力を縛らせてもらおうか。