151.この子が可愛いから味方する
プルソンと一緒に、難しい本を読んだ。パパの言ってた「じゃくにくきょぉしく?」のお勉強だよ。でも難しくてよく分からない。
近くの机でお仕事するアガレスが、書いてる手を止めて顔を上げた。僕の声がうるさかった?
「弱肉強食ですか? 実際に見て覚えたら早いと思いますよ」
「何を見せる気だ」
パパが渋い声を出す。嫌なの? 見て分かるなら早いけど、パパが嫌なら見なくていいよ。マルバスもうーんと唸った。
「訓練中の騎士に協力してもらいましょう」
「いいと思います。間違って覚えた後で直す方が大変ですし」
マルバスも賛成したので、明日、騎士の人が見せてくれる「じゃくにくきゅうしょく」を覚えることにした。
「弱肉強食だ」
ん? 何度も言わなくても覚えたよ。「じゃくにくきょうしょく」だよね。
「長い言葉はまだ難しいかい?」
くすくす笑う声と同時に、白い手が僕の頭を撫でた。プルソンが悲鳴を上げて僕を抱き寄せる。
「でかした! プルソン!!」
ミカエルだ。どうしてパパはプルソンを褒めたの? プルソンは蹄のお手手で、必死に僕を背中に隠した。よく分からないから首を傾げる。
「いくら天使が嫌いだと言っても、さすがに傷つくよ」
ミカエルがぶつぶつと文句を言う。それから思い出したようにパパへ向き直った。
「そうそう。大事件だ」
「……そうは見えんが」
「意地悪を言うな。天使による総攻撃が決議されたんだよ。悪魔を駆除するんだとさ。四大天使の半分は取り込んだが、僕らがいない間に決まっちゃった」
ぺろっと舌を見せるミカエルが「ごめんね」と付け加えた。総攻撃って何するんだろう。マルバスとアガレスが顔を歪め、パパは大股で歩いてきて僕を抱き上げた。プルソンは震えながら「将軍閣下を呼んできます」と部屋から出ていく。
何か大変なことが起きたの? きょろきょろする僕は、大人の話だからどうしようと迷う。聞かない方がいいよね。
「なぜ知らせた?」
「もちろん、この可愛い子が傷つけられると嫌だからさ。ウリエルやガブリエルも同じ意見でね。徹底的に邪魔するけど、ラファエルは別。僕らが誑かされたと思ってる。馬鹿だよね、四大天使が3人も魅了されるわけないじゃん」
パパは「四大天使を魅了する悪魔がいるなら、とっくに利用している」と怒った声で話した。魅了ってどんな力かな。
「僕はこの子が可愛いから味方する。それじゃダメかい? 信用するに値すると思うけど」
「情報は有益だ。感謝する」
「ありがと」
パパが感謝するから、一緒にお礼をする。ミカエルは可愛いって何度も繰り返しながら、僕の髪を撫でた。頬も触ったし、優しく握手もした。
「ラファエルは中央突破を主張してる。僕らはそれに同調する予定だから、覚えておいて」
ミカエルは難しい話をすると、ぱっと消えてしまった。天使の人はいつもいきなりきて、すぐ帰っちゃうの。忙しいんだね。
この後アモンが来て、僕の明日のお勉強は別の日になった。地図を出して話し合う皆を見ながら、僕はこの姿を絵に描く。ミカエルが来た時のこと、パパ達が話し合ってるところ。描き終えた僕の横で、ベロがくーんと鼻を鳴らした。
「ごめんね、ベロを忘れてたんじゃないよ」
たくさん撫でたら、僕の頬を舐めてくれた。その時、ベロが『絶対に守るから安心しろ』って言った気がして、逆なのにと思う。ママの僕がベロを守るよ。怖い顔で話すパパ達は、誰かと戦う話をしていた。
……誰か意地悪をしに来るのかな。僕もパパも負けないんだから! あ、ベロも。