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150.弱肉強食はまだ難しい

「この魚をカリスが獲ったのか?」


「ううん、違うの」


 パパが首を傾げる。聞いた話と違うと呟くけど、違うんだよ。僕が獲ったんじゃなくて、飛び込んできたの。僕は網を持ってただけなんだよ。


「ああ、そういうことか。網を持ち上げたのがカリスなら、獲ったと言っていいんだぞ」


「そうなの?」


 驚いた。捕まえたお魚は、綺麗な焼き目がついたムニエルという料理になった。白い粉でお化粧して、焼いてある。すごくいい匂いがするね。


「捌くところは怖くなかったか」


 パパのお膝の上で、今日は大人のフォークを持つ。でも、あーんで食べるけど。


「お魚、苦しくないのかな」


 ばたばた暴れてた。ちょっとだけ怖かったけど、あれは仕方ないの? 俯いた僕の頭を、パパがくしゃりと撫でる。顔を上げたら、頬を両手で包んでくれた。温かい。


「弱肉強食という言葉がある。強い者が弱い者を食べる仕組みだ」


「僕、すぐに食べられちゃう」


「カリスは俺が守るから心配するな。魚は弱い側だったから食べるが、強ければ食べられない。今度プルソンから習うといい」


 弱肉強食だと、お魚は苦しくないの?


「苦しくても仕方ない。だから苦しんだり痛い思いをした魚を残さず食べて、カリスが生きることに使えば無駄にならない」


「……難しいね」


 僕がちゃんと最後まで食べたら、お魚は満足して許してくれるかも。捕まえた時は虹色だった綺麗なお魚も、今は白い焼き魚になった。ムニエルだっけ。美味しく食べて、ご馳走様するのが大事なの。


「パパ、あーん」


 口を開けて待つ。いつもはスープだけど、今日はお魚から食べた。食べてる間に、僕もパパにあーんする。フォークは難しいから、お手手でごめんね。摘んでパパの口に入れた。ぺろっと僕の手を舐められた。


 うーっ、わん! ベロが下で鳴く。捕まえたお魚が3匹だった……ん? 違うの、3尻尾だったからベロにも分けたんだ。食べ終えちゃったみたい。


「カリス、その3尻尾とは何だ」


「お魚は尻尾で数えるんでしょ? 犬は頭で数えるんだもん」


 ベロを尻尾で数えないのは覚えた。得意げに胸を張ったら、少し違うと言う。おかしいな、どこが違ったんだろう。


 ベロはお魚も牛乳もパンも食べ終わってた。今日はお外に出たから、お風呂で洗おうね。そう言ったら、部屋の隅へ逃げるんだよ。お風呂は気持ちいのにね。


 ご飯の絵を描き終えて、僕とパパはお風呂へ向かう。ベロはパパが捕まえた。右手は僕と繋いで、左手はベロを抱えてる。まだベロが小さいから、足をバタバタしても届かないんだ。しばらくしたら諦めたみたい。


 泡で洗ったら、絵の具で汚れた僕の手も綺麗になった。びっくりしてベロの毛皮を確認する。洗った色がついてたら困るよ。焦る僕に、パパが笑った。


「石鹸で落ちただけだ。ほら温まるぞ」


 ベロが赤や青にならなくてよかった。今度は先に手を洗ってから、ベロを洗うね。そう言ったら、嫌そうな顔をした。よく拭いたのに、ベロは体を絨毯に擦ってる。風の魔法で乾かしたのに……もしかして、絨毯が好きなのかな。


 ベッドに入って目を瞑った。パパの腕にいたら、僕が誰かに食べられちゃうことはないね。

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