142.パパの指輪はドラゴン模様!
街は今日も人がいっぱいだった。僕はパパに抱っこされて移動だよ。歩いて行くと言ったら、パパが嫌だと断られた。僕が大きくなって抱っこ出来なくなるまで、パパは抱っこしたいんだって。僕はお城の庭でお散歩もしてるし、もう歩けるけど……パパの為に抱っこしてもらう。
出かける時に、ベロが大騒ぎして大変だった。僕と一緒に行くつもりだったみたい。でも仔犬は拐われちゃうと聞いて、置いて行くことにした。
首輪を買うから、首の大きさだけ測ったよ。手で輪っこを作って、ベロの首を覚えたの。これでぴったりのを買えるね。
きょろきょろする僕とパパは、一緒にお店に入った。たくさん並ぶお店の入り口に、スプーンの絵が書いてある。僕のスプーンを買うんだよ。わくわくしながら、お店の中を見回した。大きいスプーンも小さいスプーンもある。フォークとナイフもあった。
「この子のカトラリーを揃えたい」
「そちらが子供用になります」
お店の人は尻尾が長い鱗の人だった。蛇さん? ワニさんかも。どちらか聞いたらいけないの? ちらっとパパを見ると、こっそり教えてくれた。蛇の人だって。鱗がきらきらして綺麗だよね。触ったら冷たそうで、気になるけど我慢。いきなり触ったらいけないんだよ。
プルソンから覚えた礼儀は守らないといけない。拳を握って我慢した。その間にパパは子供用のスプーンがある棚を眺める。
「すまんが、純銀の物が欲しい」
「それでしたら大人用ですが、こちらに……」
「普段は置かないのか?」
「ええ、注文生産になります」
パパは少し考えて、僕の手を持ち上げる。拳を開いた手のひらを確認して、蛇の店員さんに見せた。
「この子用に作らせてくれ。金は厭わないから、意匠に凝った物がいい」
「お任せください!」
手のひらの大きさを測る蛇の人は、手がひんやりしてた。触られて嬉しい。取り皿やスープを分ける器も買うんだって。同じデザインで作ってもらうの。
「何の模様にするの?」
「カリスは何がいい?」
聞き返されて考えちゃった。お魚も好きだし、ベロも好き。パパも大好きだけど、パパの模様はないよね。あと……思いつくのはお城の人ばかり。
「この模様はどうだ」
パパが右手の指輪を見せてくれた。何か模様が入ってる。でっかいワニに翼が付いてる?
「ドラゴンだ」
「僕、パパと同じドラゴンがいい」
お店の人は模様を見てあたふたしたけど、すぐにメモして作る人に渡す約束をした。僕とパパは出来上がったら取りに来る。お金は半分だけ渡して、受け取ったら残りを払うんだって。僕は金のお金を3枚渡した。
「あの……もう一度手に触っていいですか」
自分で聞けた。驚いた顔をした後、蛇の人が頷いてくれる。そっと両手で包んで頬に当てた。やっぱり冷たい。その手は指の先まで小さな鱗がいっぱいだった。顔や首はもっと大きな鱗なのに、大きさが違うんだね。
「ありがと」
お礼を言って手を離す。蛇の人はお店の外まで来て、笑顔で手を振って見送った。僕もお店が見えなくなるまで、いっぱい手を振り返したよ。今度来たら、お名前を聞いてみよう。