134.絵を受け取った天使は微笑む
ベロはどんどん元気になる。朝もまだ僕が寝てる時間から起きて、部屋を走り回ってるんだって。元気が余ってるのかな。部屋の中にもベロの物が増えた。
トイレは僕達のおトイレの床に用意した。お風呂でベロを洗う時に使うブラシ、寝る時の丸い籠とふわふわの毛布。なぜか僕が着てた古い服も入れた。ベロは喜んでるけど……新品じゃなくていいの?
ベロが咥えて遊ぶ布はビリビリで、振り回して裂ける音が好きなの。それから何かの骨をもらった。時間があって暇な時は、ベロがよく齧ってるよ。
「今日はミカエル呼んでもいい?」
絵はもう描いたんだけど、なぜかアガレス達が「まだ早い」って言う。だから待ってたけど、3回も寝て起きたよ? いっぱい時間が経ったのに。習った文字でミカエル、ウリエル、ガブリエルの名前も書いたし、きらきらする粉も付けた。
「早めに渡す方がいいだろう。そうだな? アガレス、マルバス」
唸るような変な声を出したけど、マルバスは頷いた。それをみて、アガレスも「そうですね」と同意する。どうしてそんなに嫌そうなんだろう? 仲良くして欲しいのに。
僕はアモンが運んできた可愛い茶色の犬の服を着た。今までと違って、上半身だけなの。下は黒い半ズボンだった。絶対領域と繰り返すアモンが差し出した、白い靴下を履く。膝の上まである長い靴下だった。太ももが少し残るのが気になる。
上は帽子になってて、胸に骨の印がついていた。刺繍と言うんだって。糸で絵を描いてるんだよ。帽子の上に三角の耳があるのは、ベロとお揃い。珍しく縫いぐるみがなくて、聞いたらベロを抱っこするからなの。そうだよね、ベロを抱っこしたら縫いぐるみは無理だもん。
「ミカエル」
パパがぼそっと、嫌そうに呼んだら来た。パパとミカエルは何か繋がってるのかな? 首を傾げたら、パパが「絶対に繋がってないし、繋がったら切る!」と否定した。よく分からないけど、魔法で呼んだと教えてもらう。僕も出来るようになるといいな。
ベロを抱っこして、ミカエルの前に行く。笑顔で膝を突いた天使の前に、ベロを下ろした。
「ありがとう。ベロ、元気になったよ。綺麗にして大切に育てるね」
「うん、君なら安心して任せられる」
ミカエルは僕に笑いかける。僕もにっこり笑った。笑ってくれると僕も嬉しくて、笑っちゃうの。欠伸みたいに移るのかも。ぷっと吹き出したミカエルが楽しそう。
「絵を描いたの、お礼です。どうぞ」
アガレスに用意してもらった額に入れた絵を渡す。両手で受け取ったミカエルは端から端まで眺めてから、嬉しそうに「ありがとう」と言った。ちゃんと絵を見てくれて、これが自分だと指差す。頷いた僕の頭を撫でて、ベロも撫でた。
「この仔犬、大きくなると君を守ってくれるよ」
「でも僕がママだから、僕が守るの」
「そっか。いいママだね」
ミカエルは優しくそう言った。僕の周りにいる悪魔は、皆優しい。天使もだけど、時々黒くて怖い天使もいる。黒くない人は、僕を嫌いじゃない人だった。これからも仲良くなれる人が増えたらいいな。
「君が頂点に立てば、どの世界も平和なのにね」
難しいことを言って、ミカエルは帰った。また来ると手を振ったけど、パパ達はもう来なくていいと呟く。これって挨拶のひとつ? 僕もちゃんと覚えて、大人になったら使おう。決意したら、慌てたパパに「違うぞ」と言われた。
どこから違うのかなぁ。