表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/214

12.猫と狼の違いは大きくて

 翼のことは口に出さないよう言われた。約束なんだって。指を絡めて約束したら、絶対に破らないんだよ。僕はちゃんと出来る。バエルのこと大好きだから、言わない。


 抱っこもキスも好きだけど、バエルと一緒が大好き。僕の声が聞こえるの、すごく嬉しい。いっぱい近くにいるみたい。


 へにゃっと顔が崩れて笑っても、バエルは許してくれる。見たいって言った。バエルみたいに綺麗じゃないけど、いつか綺麗になれるかな。


「カリスの目に、俺は綺麗に映るのか」


 なぜか悲しそうな声だった。翼の話の時もそう。僕が知ってる中で一番綺麗な人なのに、どうしてだろう。


「この瞳に映るのは、過去の俺だ」


 過去って昔のこと? でも僕は昔のバエルを知らない。今のバエルだけなのに。悔しいような変な気持ちで唇を尖らせると、くすくすと笑った。


「アガレスはどう見える?」


「手と顔とか半分くらい人で、残りは柔らかい毛皮の猫さん」


「……本人には狼と言ってやれ。傷つくぞ」


「猫さんじゃないの?」


 違うと否定されて、慌てて口を手で押さえた。絶対にアガレスには言わない。狼さんだったんだね。よかった、アガレスに言わなくて。きっと気分を悪くして怒っちゃうと思う。


「そこまで怒らないが、泣くかも知れんな」


 泣いちゃうの? 僕が怒られるより大変だよ! 


「カリスが泣く方が事件だ」


 バエル、楽しそう。僕の心はアガレスにも見えるのかな。もし猫さんだと思ってたのが伝わったら……。


「安心せよ、そなたの心が伝わるのは契約した俺だけだ。アガレスであろうと、他のどの悪魔も覗けぬ」


「僕とバエルだけ?」


 嬉しい。僕はバエルの、ひとつだけの物みたい。


「このような関係を特別と言うんだ」


 新しい言葉に目を見開く。とくべつ? 僕、バエルの特別なのかな。そう思ったら頬が緩んだ。可愛いと言いながら抱き締めるバエルが、小さな何かを取り出した。


 瓶から転がり出たのは、水色の紙で包まれた丸い物。初めて見る。バエルの指先が紙を開いたら、中に薄い黄色の透き通った粒があった。それを摘んで、僕の唇に押し当てる。


「口を開けてみよ」


 ……ガラスに似てる。尖ってないけど怖い。バエルなら痛いことしないから平気、なのに口を開けようとすると震えた。怒らせちゃう。早くしなきゃ。気持ちが焦る僕の髪を撫でて、バエルがガラスを口に入れた。


「バエル! 痛くなる、血でる」


 取り出そうとしたら、甘い匂いがした。同じ物をまた出して、バエルが中身を僕の唇へ触れさせた。


「あーん、だ」


 ぎこちないバエルの言葉に、僕は覚悟を決めて口を開けた。からんと音を立てて入ってきたのは、冷たいガラス……じゃない。味がする。甘い? お野菜の甘いのをいっぱい集めた感じで、転がしても刺さらなかった。


 ガラスじゃないの?


「飴という菓子だ。噛まずに舐めていろ。これから毎日やろう」


 このうまいのを毎日? 楽しみだな。明日は色が違うのを用意してくれるんだって。こんな甘い味、初めてだ。からころと口の中で転がる音が不思議で、痛くないのが嬉しい。ほにゃっと笑ったら、頬にキスをくれた。


 息子になるって、胸がじんとして鼻がツンとなることがいっぱい。甘い飴がなくなって、僕は少しだけがっかりした。ずっとは続かない。でも明日も食べられるから我慢するね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ