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126.生でもいいお魚とダメなお魚

 生のお魚が食べられるって、初めて知った。僕が知るお魚は、放り投げられた餌に入ってた骨と、パパがくれた美味しいご飯。どっちも生じゃなかった。


「生で食べられるの、びっくりした」


「池にいる魚は生で食べたらダメだぞ。お腹が痛くなるからな」


「そうなの!?」


 生でもいいお魚とダメなお魚がいるみたい。同じお魚なのに、何が違うんだろう。この刺身をお土産にしようとしたら、生のご飯は傷んで悪くなるんだって。残念だな。美味しいから皆にも食べて欲しいのに。


 しょんぼりした僕に、パパは別の案を出してくれた。皆が休みの時に、人間の世界に食べに来るの。そうすれば美味しいお魚を皆で一緒に食べられる! さすがパパ、僕よりずっと優しくて頭いい。


「随分可愛い子だな」


「……ああ」


 いきなり話しかけてきたのは、知らない人だった。おじさんだけど、僕は何も言わない。だって知らない人と話してはいけないの。パパやアガレスと約束したんだ。


 代わりにパパが答えたけど、嫌そうな声をしてる。知り合いじゃないんだね。にやにやと笑う顔が怖い。あの顔は、奥様と一緒に僕を殴った男の人と同じだもん。笑いながら僕を叩いたんだ。棒で叩かれて、次の日もその次の日もずっと痛かった。


 せっかくパパと楽しかったのに、邪魔された。パパに擦り寄って顔を首に埋める。ぎゅっと抱きついたら、パパが支えてくれた。


 パチン! 後ろで叩く音がして、びっくりする。肩をびくっと揺らして、怖々振り返ったら……パパが怒った顔だった。男の人はまだにやにやしながら、叩かれた手を撫でている。パパが叩いたの?


「そんなに怒らなくてもいいだろ」


「勝手に我が子に触れる無礼を許せと? さっさと去れ」


 ぶわっと何かがパパから出た。それを浴びた途端、おじさんはにやにやをやめて立ち上がる。そのまま青い顔で逃げていった。


「パパ、今の何?」


「ああ、カリスには見えたのだな。びっくりさせただけだ」


 動物が脅かす時と同じみたい。それは絵本を読んでもらった時に聞いたよ。威嚇と呼ぶんだよね。僕は強いぞ、って示す方法だった。パパは本当に強いから、相手が驚いちゃったのかも。


「もう来ない?」


「来ない。もし来たら、また追い払ってやる。何も心配しなくていいぞ。あんな奴に触れさせない」


 ぽんぽんと僕の背中を叩いて落ち着かせたパパは、また膝の上に乗せ直した。座った正面にまだお魚が残ってる。この船の入れ物は持って帰れると聞いた。アガレス達に見せてあげよう!


「お腹はいっぱいか?」


「うん……」


「じゃあ、俺が食べちゃうぞ」


「僕がパパにあーんする」


 二本の棒で掴むのは無理だけど、手をよく拭いてから指でパパの口に入れた。美味しいと喜んだパパの顔を見て、僕も嬉しい。たまに僕も食べて、全部お魚をいただいた。命があるものを食べるときは残したらいけないの。プルソンが言ってた。


 命に感謝してご飯を食べる。大切だよね。いつか僕も誰かに食べられちゃうのかな?

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