106.勝手に一人で食べるからだよ
パパに天使について色々聞いた。いい天使も悪い天使もいるんだって。だからミカエルとガブリエル以外の天使に話しかけられたら、すぐにパパを呼ぶ約束をする。パパは重ねて何度も約束をするんだ。きっと僕が約束を忘れないか、心配なんだと思う。だから僕も真剣な顔で頷く。
「わかった。ミカエルとガブリエル以外の天使は、お話をしない」
パパと指を絡めてしっかり約束した。ミカエルとガブリエルは、また来るねと手を振って帰っていく。空を飛ぶ天使の白い羽は綺麗だった。パパも持ってるのに、どうして秘密なのかな。振り返ってパパを見つめると、困ったような顔をする。
そうか! パパは悪魔の偉い人だから、天使の翼を持ってると間違われちゃうんだ! パパのお顔はすごく綺麗だし、天使と同じに見える。だから隠してるんだよ、きっと。
納得して頷いた僕に、パパは何も言わなかった。それが答えだよね。
手を繋いで一緒に戻る僕とパパに、アガレスが駆け寄ってきた。
「アガレス、今日のお散歩は終わりだよ」
来るのが遅かったの。もうお庭の花も見たし、天使とお話もし終わったんだよ。これからお部屋に帰って、絵を描くの。得意げにもらった籠の中身を見せた。絵の具と絵本、それからお菓子なんだ。一緒に食べようね。
「カリス様、毒見役は私が務めますのでご安心ください」
「うん」
どくみやく? 何する人だろう。アガレスがしてくれるなら、僕は待ってればいいんだよね。パパとアガレスの間でブランコしたいけど、この籠はどうしよう。
「俺が預かろう」
パパの収納のお部屋に入れて、空になった手を伸ばす。パパは右、左はアガレスと繋いだ。
「ブランコして」
「はい、いいですよ」
「もちろんだ」
二人の間で足を丸める。ぶらぶらしながら、お城に入った。廊下も広いから、このまま行けるんだ。階段は危ないからパパの抱っこで通過して、また上の廊下をブランコしてもらった。
部屋ではマルバスがお茶を淹れて待ってて、僕には緑のジュースをくれた。甘い匂いがして、粒々が入ってる。コップを傾けて飲むと、とろんとして甘かった。
「ありがとう、美味しい」
「良かったですね」
パパはアガレスと難しいお話を始めた。ミカエルやガブリエルにもらったお菓子を食べたかったんだけど、大人のお話が終わるまで、僕は待てるよ。
「陛下、天使共の侵入を許すのですか」
「カリスの前だ、後にしろ」
パパは収納からお菓子の入った籠を出す。お菓子は綺麗な色の袋に入ってて、リボンが結んであった。パパと一緒にリボンを解いて、中のお菓子をお皿に出す。傾けてざらっと出した途端に、アガレスが摘んで口に放り込んだ。
「あっ! アガレスずるい!!」
ぐっ、げほ……変な咽せ方をして苦しそうなアガレスに、パパが大笑いした。マルバスは気の毒そうにアガレスを見てる。苦しそうだから、パパの膝を降りてアガレスの膝を撫でた。本当は背中を撫でたり叩くんだけど、僕は届かないから。
「けふっ……もう大丈夫、です」
まだ声ががさがさしてるけど、アガレスはお茶を一気に飲んで笑った。喉に詰まったお菓子、取れたのかな。急いで一人で食べるからだよ。
「一緒に食べればいいのにね」
僕の言葉に、アガレスは困ったような顔で頷いた。パパのお膝に乗ろうとしたら、大笑いするお腹が揺れて上りにくい。すぐに抱っこで乗せてもらった。
「あーんだ」
パパからお菓子をもらって、僕もパパの口にお菓子を入れる。このお菓子、すごく美味しいね。次に二人に会ったら、お礼を忘れないようにしなくちゃ。