表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/214

102.父は決意し、我が子の魂を縛った

 ミカエルが去り際に忠告したのは、幼子の心の傷だった。何か不安そうな言動をしたり、ひとつのことに固執する様子は注意しろ、と。


 予言のようにカリスは不安定になった。絵を描かせるといいと聞いたアガレスが用意した紙に、カリスは夢中になって今回の騒動を描く。全体に暗い色が多かった。天使の顔を黒く塗り潰し、白い羽の上にバツ印を刻む。それから俺とカリスを繋ぐ線を描いて、何度も太く塗り続けた。


 契約による繋がりを一度断たれた。その衝撃は引き受けたが、カリスは心細かったのだろう。その絵が気に入らないと描き直そうとする。もっと太く繋がりを描かないといけない、そんな強迫観念すら抱いていた。


「これは立派な絵だな。凄いぞ、カリス。ちゃんと俺とカリスが繋がってると分かる。天使に負けなかった証だ」


 褒めて感情を上書きしてやる。それでも不安なのか、しっかりとしがみついた。食事も風呂も寝る時も、片時も離さない。ぴたりとくっついて過ごすのに、まだ怖いのだ。それは俺も同じだった。


 隣の部屋にいたカリスが攫われた。手の届きそうな距離で、見える位置にいたはずなのに。その恐怖が、同じ部屋の中にいても消えない。瞬きした間に奪われるのではないか。怖がって泣くかも知れない。膝の上に座らせ、ひたすら触れ続けた。


 この子が望むなら、天使と戦ってもいい。いくらでも屠ってやろう。だが血腥い光景を見せたくないのも本音だった。この子は明るい笑顔が似合う。


「僕ね、パパと一緒じゃないとやだ」


「俺もカリスと一緒がいいぞ」


 不安そうに呟くから、肯定して笑った。この子の目に、俺はまだ綺麗に見えるだろうか。笑顔を向けると嬉しそうに笑い返す。その表情がいつか曇る日が来ることを恐れた。この醜い姿を、カリスが目にしないように。


 怖いと泣いて離れていく未来は許容できない。大切に真綿に包んで守りたかった。今のカリスに刻まれた契約印は、束縛を強くしている。カリスの魂にも刻み、絶対に切れないよう強化した。この契約を無理やり断つなら、俺が受け止め切れずにカリスも巻き添えになる。以前はそれを懸念して手加減した。


 絶対に手放せないと自覚すれば、ぬるい対応は選択肢から消える。俺の手からこの子を奪うなら、俺はカリスの魂を縛ったまま砕け散ろう。死なば諸共――他者が介入できる隙を残さねばよい。


「パパ大好き」


「俺もカリスが大好きで、愛してるぞ」


 愛しい我が息子よ、覚悟いたせ。父はすでに決意し、そなたの魂を縛った。二度と離れることがないよう、カリスは俺が契約する最後の存在だ。次はない。ゆえに……最期まで一緒にいられるであろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ