新月
プロローグ
辺りには牧草が絨毯のように敷き詰められ周りには森が広がる。
風のさざめき。空に落ちた片割月。
こんなにも夜空は澄み渡っているのにーー。
まるで、空とこの地は別の世界とでも言ってるかの様に周りには夜霧が漂っている。
空に月。地に霧。碧に紅。
夜霧の中には世界のどの生き物にも該当しようのないモノが佇んでいる。
月明かりに照らされ、生き物と呼べなくなり生命の輪から外れたものは周りの木々を裂くように轟音を響かせる。
周りに生命は無く。ただ、いやに青々しい地面の草等が唯一生気を発していた。
空に浮かぶ月はそのモノの影を更に濃くするように、嘲笑うようにただそこにあり続ける。そこに一人ぽつんと立つ少年はそのモノではなく輝く月を見つめ続ける。周りに光のないこの場所を照らすのにはあまりにも頼りなさげに見える小さく欠けた月。
すると狙いを定めていたのか、鳴き声のようなあげていたモノはこちらに大きな爪を突き立てようと突進してくる。ヒグマのような巨体だがすらりと細く、残念ながら遅さは感じられない。距離にして30m普通の人ならば避けられるわけも無いが、そこに立つ青年も例にもれず驚異的な身体能力は持ち合わせていなかった。
しかし、すっと腕を持ち上げる。その手には真鍮のアンティークなハサミが握られている。迫りくる巨体に対抗する為の武器がナイフでも銃でもなくハサミだ。さらにデザイン性重視なのか持ち手は大きく繊細な造形をしているが、肝心の刃は大きくなく到底太刀打ちできそうにない。
先ほどまで空の月を見ていた少年の目は、まっすぐにそのモノを見据えハサミの先を突き付けるように佇む。1秒、2秒、眼前にまで迫りつつあるそのモノは大きく腕を振りかぶろうとする。少年はゆっくりハサミを開く。
腕が振り下ろされるのと少年がハサミを閉じたのは同時だった。
じょきり。と音がする。ハサミはそのモノのどこにも触れてはいない。しかし、確かに少年のハサミは何かを切り裂いた。
確実に少年を引き裂けたであろうモノは突如停電が起きたかのように動かない。ゆっくりとその巨体が夜霧の中に霧散していく。
「ふう。こんな何もないところまで来ることになるとは思わなかったな。」
緊張の糸が切れたかのように少年は息を吐く。どこか浮世離れした空間の中で、少年はもう一度空に浮かぶ月を見続ける。
ちょこっと書いたのでとりあえず投稿です。
読んでいただきありがとうございます。